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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十三章 刃が迫る夜

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37話

その時、後ろからたくさんの灯が近づいてきた。


「誰かいるぞ、あれは・・・・若奥様だ、皆、早う、早う!」


桐生家の使用人たちが一斉に蒼真とお千代のもとへと駆け寄った


次に意識が戻ったとき、頬に柔らかな温みがあった。そこは雪の冷たさではなく、布団の温もり。目を開けると、蛍のような行灯の灯が揺れている。窓の外はまだ薄く雪化粧をしているが、屋内は暖かかった。蒼真は飛び上がるように起き上がった。


そっと戸引き開けると、そこには年老いた女性が一人、窓を拭いていた。


「おや、目を覚まされましたか」


その時、ここが桐生家の屋敷であることに気づいた。自分がなぜここにいるのかまだわからないがお千代が今どこにいるのか心配だった。


「お千代は、どこにいますか?」と、蒼真は問いかける。


喉がまだ凍りついたようにかすれていた。


「若奥様は、奥の寝所にお休みです。旦那様が、話がおありだと仰せです――

昨夜の屋敷は騒然としていたのですよ、若奥様がいなくなり、火事だと誤報もあって……おそらく、そのお話だと思います、私も詳しくは知りませんが」


「旦那様?」


蒼真の心臓が跳ねた。


(旦那様、ということは桐生家の当主のことを指すのか)


頭の中で状況を繋ごうとして、しかし雪の中の記憶はまだ朧げである。

蒼真は礼をして奥へ進む。踏みしめる畳の感触が、まだ夢の縁にいる自分を現実へ呼び戻す。廊下を進むと、暗がりの向こうに、さっきの吹雪が遠い世界の出来事であったかのように感じられた。


戸を押し開けると、お千代がゆっくりと目を開けた。  

寝覚めのまどろみから、現実が戻ってくるように、瞳が焦点を合わせる。蒼真は声を上げて安堵の欠伸のように漏れる。


「よかったぁ……」


お千代はびくりと身を起こし、辺りを見回してから、はっとして顔をあげる。視線はまっすぐ蒼真に注がれ、戸惑いが形をなして現れる。


「ここは、どこになの?」と、彼女は小さく問いかける。言葉に眠りの余韻が残る。


「ここは、君の屋敷だよ」と蒼真は答えた。


声は静かだが、確かな現実を伝えようとする。お千代の眉がすっと曇り、薄く震える。


「旦那様が、呼んでるらしい」


その瞳に影が差したのを見て、蒼真は息を呑む。


「お父上が、そう・・・」と呟くように続けるお千代の声を聞き、彼女の表情がさらに曇るのを感じた。


二人はしばしの沈黙の後、立ち上がる。蒼真はお千代の手を取り、ゆっくりと導くようにして廊を進んだ。奥の座敷へ向かう足取りは自然と重くなる。廊下の角を曲がる度に、蒼真の胸の中で時計の針が一つずつ進むようだった。


やがて、桐生家当主の間へと続く襖の前に立った。蒼真は深呼吸を一つして、襖を押し開けるために手を伸ばした。

  

襖を押し開けると、座敷の奥に桐生家当主が居丈高に座し、畳に深く腰を据えていた。顔には年

輪の厳しさが刻まれ、目は蒼真を一瞥すると針のように尖った。


「お千代、心配したのだぞ!なぜこのような男と山奥へなんて、婚約まじかだというのに」


当主は蒼真をきりっとにらんだ。


「お主は何者だ、なぜお千代を連れ出した。何事か、語れ。それに、火騒ぎの誤報を起こし、我が家の娘を連れ出したとは、どういう了見だ、そのうえ山中で娘を危険にさらすとは、我が使用人が見つけ出さなければ大惨事になっていたというのに」


旦那様の声は低く、床に響いた。座の周囲には数人の使用人が固まり、面持ちは険しい。彼の視線はまっすぐにお千代を捉え、続けざまに蒼真へ刺さる。


お千代が口を開こうとしたその刹那、旦那様は手のひらを軽く上げて制した。


「余計なことを申すでない。まずはこの者が何者かを聞く」と、冷たく命じる。


お千代の顔に一瞬戸惑いが走る。


蒼真は息を飲み、言葉を選びながら前へ一歩出た。目は真っ直ぐで、震えはあまり見えない。彼の声は落ち着いていた。


「信じがたい話かもしれません。けれど、どうかお耳を貸してください。私は――未来より参りました。お千代様に助けられ、そこで知り合った者です。それに、桐生家が明日、暗殺により一家が滅びると記された歴史を知っております。だから今宵、助けたのです。嘘に聞こえるのは承知しています。けれど、目の前の事実を変えたかった」


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