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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十一章 鳥居の向こうでまた君と合う

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32話

リュカの声には業務的な冷静さがあったが、瞳の奥にほんの一滴ほどの後悔が揺れた。


「まずは謝らねばならない。本日は時空電鉄及び時空管理局の不備により、あの鳥居でタイムバグが発生し、君を別時空間へ移動させてしまった。申し訳ない。今、管理局の者を呼んで調整させている。安心してくれ、もうすぐしたらバグも解消される。それに君を今すぐに現代へお送りする」


蒼真の頭は混乱で回った。現代へ? 屋敷で見たあの光景は夢じゃない。現実だ。だが胸の奥から出てくる声は、リュカの説明を遮った。


蒼真はリュカの言葉を遮るように身を乗り出した。雨の匂いと血の感触がまだ手に残っているまま、声は震えていたが、切実さだけは揺るがなかった。


「ちょっと待ってください! 時空電鉄って……それって一体何ですか?」


言葉は矢のように次々と放たれた。説明を求める眼差しは、ただの好奇心ではない。どこか必死で、命を託すような切迫感が宿っている。


リュカは一拍だけ間を取って、淡々と、しかし丁寧に答えた。


「時空管理局は――時の秩序を監督する機関だ。過去と未来の衝突を避け、人間の選択が世界に致命的な歪みを生まないように調整するのが仕事だ。通常は厳格な手続きと代償が必要で、戻れる回数も、選べる時点も限定される。藪を突くような無責任な介入は許されない。」


だが、その説明の終わり方に蒼真の希望は消えなかった。むしろ、声はそれを越えていった。


「規則だとか代償だとか、今は関係ない!俺にできることがあるなら、なんだってやる。どうか、過去に戻してくれ。お願いします!」


蒼真の掌が震え、目には涙が光る。言葉が叫びに変わる寸前の、その瞬間を、リュカはじっと見つめていた。


しばらくの沈黙の後、リュカはゆっくりと息を吐いた。表情にはいつもの冷静さが戻っているが、その声にはいつもより温度があった。


「君の覚悟は分かった。だが聞いてほしい。管理局の規則は破られるためにあるのではない。だが……今回、鳥居で生じた“接続不良”は我々の過失だ。君をあのまま現代に返すのは簡単だが、君の望みを聞かずに済ませることはできない。」


リュカはポケットから小さな、黒光りする切符を取り出した。掌の中でそれは微かに青く瞬いた。


「本来なら——」とリュカは一度言葉を切る。


「時空を遡るには代償が必要だ。過去一年分の記憶を差し出すことがその代価だ。しかし、今回はそもそも管理局側の不備によって、君たちが不本意に“接続”されてしまった。だから今回は――」


リュカは言葉を選び、静かに結ぶ。


「代償との引き換えは、なしとする。」


蒼真はリュカの瞳を見据え、震える手で切符を受け取った。冷たい金属の感触が掌に伝わると、胸の奥で何かが固まるように静まった。


「ありがとう……必ず、助ける。助けてみせる。」


その瞬間、待合室の時計が低く鳴り、空気がざわめく。ティオの足音が近づき、青白い光が床に広がった。時間の扉は、今まさに開こうとしている。


リュカが静かに呟いた直後、蒼真は目を閉じ、胸の中で息を整えた。

そして、空気がきしむような感覚とともに、低い声で呪文を唱えた。


「時の流れよ、我が声に従い、迷いのない軌跡を示せ。

過去と未来を結ぶ道を、刻の裂け目に映し出せ。

光の輪が導くは、時空電鉄への扉。

今、現れよ、扉よ、我に開かれたる軌道の門よ。」


言葉が最後の句を越えた瞬間、待合室の空気が波打った。白い扉の輪郭が浮かび上がり、光が静かに渦を巻いて広がる。蒼真は手を伸ばし、震える足で一歩を踏み出した。扉の向こうには、金属と木が溶け合ったようなホームが淡く光っていた。


いつの間にか、彼の掌には切符があった。紙ではなく、薄い光の板のように温かい。驚きの間もなく、藍色の制服を纏った少年がにこりと現れ、鋏を取り出した。ティオだ。


「切符を拝見。」


ティオの動作は儀式のように正確だ。小さな鋏が切符に触れると「カチリ」と快い金属音が鳴り、切符の端から青い光がひと筋はじけた。


「有効です。どうぞ。」


ティオは淡々と微笑みながら、蒼真を列車の乗降口へ誘導した。


車内は想像以上に静かで、古い木製の椅子と冷たい金属の手すりが混在していた。蒼真は席に腰を下ろし、切符を固く握りしめる。窓の向こうには、いつしか映像が揺らぎ始めた——過去の断片がガラスに次々と映し出される。


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