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時間を巻き戻せる切符――代償は、君との一年分の記憶でした    作者: まなと
第十章 もう一度、あなたへ

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27話

夕方の空は、茜色に滲んでいた。

玲奈は、叔母の家の部屋で荷物の整理をしていた。

そのとき――一枚の紙が、ふっと床に落ちた。


封筒。

古くて黄ばんでいるのに、何故か胸が締めつけられる。

差出人欄は空白。


宛名は自分。


封を切った瞬間、知らないはずの文字に手が震えた。


『一年後の今日、夕日が見える広場で待つ。

 あの日の続きを――きみに。』


知らない。

見覚えなんてない。

だけど、涙が零れそうになる理由も分からない。


(……行かなきゃ。

 どうしてか分かんないけど……行かなきゃダメだ)


気づいたときには、玲奈は家を飛び出していた。


同じ頃。


斗真も、引越し準備の最中に

机の奥から一枚の手紙を見つけた。


読んだ瞬間、頭の奥がズキンと痛む。

でも――痛みの向こうで、何かが囁いた。


(行け。

 そこへ行け。

 大切な“誰か”が待っている)


意味なんて分からない。

記憶もない。

でも身体が勝手に駅へ向かっていた。


二人が向かう場所は、海風がそよぐ、静かな丘の上。斗真が先に着いた。


初めて来るはずなのに――

胸がきゅっと締めつけられる。


(なんだ……この感じ……

 来たことあるみたいな……)


手すりに触れると、理由もなく涙がにじむ。


そこへ、足音がした。


カツ、カツ――。


振り向く。


夕日を背に、ひとりの少女が立っていた。


白いブラウス。

柔らかく風に揺れる髪。

そして、今にも泣き出しそうな瞳。


完全に初対面のはずだった。


なのに――息が止まる。

その瞬間だった。

視界の端で、玲奈の涙がひとつこぼれ落ちた。


──どうしてだろう。


理由がないのに、その涙を見た瞬間、胸がぎゅっと痛くなった。

会ったばかりのはずなのに、失いたくないという感情だけが、はっきりと形を持つ。


斗真はゆっくりと一歩、近づく。


「……初めて会うのに」


「うん……初めてなのに……」


ふたりは同時に、小さく笑った。

けれど不思議な寂しさだけは、どうしても消えなかった。


そのとき──   


斗真が空を見上げた。

玲奈も同じ方向を見て、ふっと微笑む。


理由なんてわからない。

けれど、来てよかった。

彼女に会えてよかった。


それだけは、はっきりしていた。


「……あのさ」


斗真が小さく言う。


「よかったら……名前、教えてくれる?」


玲奈は驚き、そして照れくさそうに笑う。


「……うん。そっちこそ」


白い灯台を背景に、ふたりはゆっくり向き合う。


まるで運命が、ここでようやく動き出したみたいに。


そして──


ふたりの声が、海風に溶けていくようだった。


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