22話
震える声がすぐ目の前から聞こえ、そこに、確かに玲奈が立っていた。
涙をためながら、信じられないものを見たような表情で。
「れ、玲奈……!」
生きている。温かい。こんな当たり前のことが胸に刺さる。抱きしめ返す玲奈の体から、彼女がどれほど壊れそうだったかが伝わってきた。斗真の目には、過去数日の後悔と、助けられなかった苦しみが一気に集まる
しばらく言葉にならない時間が流れ、ようやく玲奈が小さく息をついた。
「……斗真、どうして……」
その声は震えていて、今にも泣き出しそうで。
斗真は肩をそっと押し離し、彼女の顔を見つめた。
「わからない。君に会いたい……そう強く思ったときにはここにいたんだ……」
斗真と玲奈が抱き合い、ようやく落ち着いたその瞬間だった。玲奈の肩が小さく震えはじめる。
「玲奈?」
そっと顔をのぞき込むと、玲奈は怯えたように視線を揺らしながら、唇を震わせてつぶやいた。
「……ねぇ、斗真。わたし……わからないの……」
「何が?」
玲奈は胸の前で握った手をぎゅっと強くし、言葉を絞り出す。
「わたし……あの夜……家にいて……。お母さんがね、倒れてて……動かなくて……」
彼女の声は震え、記憶を手探りでたどっているようだった。
「それで……家が、燃えて……煙がいっぱいで……苦しくて……」
「玲奈……」
斗真の胸が痛む。玲奈は必死に続けた。
「わたし……確か……何かが落ちてきて……頭に当たって……倒れて……。その……あとは……」
その先を思い出そうとするたびに、玲奈の眉がぎゅっと寄り、呼吸が乱れる。
「……なんで? なんでわたし、生きてるの……? ここ……どこなの……?」
玲奈の両目から涙が零れ、斗真の胸元に落ちた。
斗真はそっと彼女の肩を抱き寄せながら、はっきりと答えられない自分に気づく。
自分も――何が起きてどうしてここに来たのか、完全には理解できていなかった。
しばらくして、背後から静かな声が響いた。黒燕尾の青年――リュカ・ヴァンレオンが、一歩離れて立っている。彼は二人を見つめると、少しだけ首をかしげた。
「知り合いでしたか」
「あなたは……?」
斗真が身構える。
リュカは軽く胸に手を当て、礼をした。
「時空電鉄・案内係のリュカだ」
おだやかな声で言い、ゆっくり二人に歩み寄る。
玲奈は涙に濡れたまま、震える声で問いかける。
「ここは……いったい、どこなの……? わたし……どうなったの……?」
リュカは一瞬だけ目を伏せ、そして優しく言った。
「ここは――時空電鉄の待合室。
“もう一度だけ選択できる場所”です」
玲奈の肩がぴくりと震え、斗真の手が強く握られる。
「ま、待って……亡くなった? わ、わたし……死んだの……?」
「落ち着いてください、玲奈さん。あなたは、確かにあの火災で……命を落としました」
玲奈の顔色がさっと青ざめ、斗真が息を呑む。
「そんな……」
「しかし――完全に消えてしまったわけではありません」
リュカの声はあくまでも静かで、優しい。
「あなたの“想い”がこの時空に引き寄せられ、そして斗真さん――
あなたが強く願った。その願いが、道を開いたのです」
斗真の胸が熱くなる。
自分が叫んだ“戻りたい、助けたい”という思い。その意味が今、形になっている。
「では……僕と玲奈は、どうすれば……」
斗真の声は震えていた。
リュカは二人をまっすぐ見つめ、ゆっくりと言葉を続ける。
「お二人には、ひとつの選択肢が与えられます。
――過去へ戻ることです」
玲奈が息を呑む。
「戻れる……? 本当に……?」
「はい。ただし――条件があります」
リュカの瞳に、わずかな哀しみが宿る。
「戻った日から“一週間後”、お二人は 過去一年分の記憶 をすべて失います」




