14話
水城の復讐、終了。
彼女はもう立ち直れない。
味方ゼロ。信用ゼロ。自尊心ゼロ。居場所ゼロ。
だが復讐はまだ終わりではない。
いじめグループ3人と担任・田淵
そこに、届き始める——
差出人不明の「過去の断片」。
・黒板消しを仕掛けられた日
・机に落書きされた日
・泣きながら掃除をさせられた日
・放課後の呼び出し
・上履きを捨てられた日
証拠は誰も持ってないはずだった。
しかし、エマはあの時、泣きながら毎日、日記を書き続けていた。
それがSNSの匿名投稿、週刊誌、大学・職場へとじわじわ回り始める。
加害者3人は、エマからではなく互いの裏切りを疑い始める。
・「お前が情報をリークしたんだろ」
・「違う!わたしじゃない!」
・「嘘。じゃあ誰が知ってるの?」
仲間割れ。
友情は秒でバラバラ。
全員、社会的信用を守るために 自分の無実を証明しようとして「自分の悪事」をさらに話してしまう。
——相手を疑えば疑うほど、破滅が加速する。
田淵は焦る。
教育委員会に告発文が届いている。
「見て見ぬふりをした教師こそ最低の加害者だ」
田淵は否定する。
しかし、PTA・生徒・ネットの炎上は止まらない。
そして1本の音声データが流出する。
『気にしすぎなんだよ。いじめられる方にも原因があるの』
録音したのはエマだ。内ポケットの中にボイスレコーダー
田淵は終わった。
ついに元いじめメンバー3人は、同じ言葉を口にする。
「殺された方がマシだった」
エマはただ一度だけ連絡を送る。
> 『わたしは復讐していません。
ただ事実を世界に戻しただけ。
隠したのはあなたたち。
過去を作ったのもあなたたち。
私は、受け取る場所を変えただけ。』
送信相手は——
加害者でも、教師でもない。
“自分自身”宛ての下書きフォルダ。
本当のメッセージは誰にも送られない。
復讐は 成立した瞬間に終わっている。エマは誰からも感謝されないし、賞賛もされない。
でもそれでいい。
3人と星川は、
「エマに復讐されたのかも知れないし、違うかもしれない」と一生疑い続ける。
エマは駅のホームで電車を待つ。
始発がゆっくり近づく。
> 「次の駅は、“自分の人生”。」
エマの顔に初めて、ほんのわずかな笑み。
——復讐は終わった。
——エマの人生が始まる。
復讐が終わった夜。
エマは珍しく帰りが遅くなった。
靴を脱ぐと、玄関には母のスリッパ。
いつもより先に気配があった。
「おかえり、えま」
リビングの灯りはやわらかく、テレビもついていない。
ただ静かに母が座っていた。
エマは一瞬、息が止まる。
隠し事がすべて見透かされている気がして。
母は何も責めない。
明るく笑いもしない。
ただ、静かに言った。
「えまは、ずっと頑張ってたんだね」
母は背中を撫でながら言う。
「本当に気づいてあげられなくてごめんなさい。
つらかったよね。でももう戦わなくていい。
エマはここにいるだけでいい。
それでいいの。」
復讐も、怒りも、傷跡も消えない。
それでも初めて、エマの心に “終わり” が降りてきた。
涙が止まると、母は紅茶を淹れて戻ってくる。
二人で黙って飲む。
テレビもつけない。
言葉はいらない。
母がふっと笑って言う。
「ねぇ、明日さ。どこか行こう?
遠くじゃなくていい。
エマと歩けるならどこでも。」
エマは少しだけ笑う。
「……うん。どこでもいい。」
明日が「怖くない」と感じたのは、いつぶりだろう。
その夜、エマは自分の部屋に戻る。
机にはあの日の 日記帳 が置かれていた。
エマはそっと閉じる。
そして本棚の奥、二度と開けない場所へしまう。
もう証拠も、記録も、戦う理由もいらない。
だって——
誰も知らない闇の中でたった一人で戦ってきたことを、母が気づいてくれたから。
それだけで十分。
翌朝。
玄関を出ると、母が笑って言う。
「今日は始発じゃなくていいよ。
のんびり行こう。」
エマは頷く。
母と並んで歩き出す。
復讐は終わった。
今日からは “人生を取り戻すための旅” が始まる。
そして彼女の長い長い一週間を終えた。
気づくと、エマの頬には冷たい風のような空白が広がっていた。手を伸ばしても届かない、名前さえすぐには思い出せない――胸の中のいくつもの風景が、知らないあいだに薄れていた。
誰にも乱されない場所にしまわれたのだろうか。エマはその問いに答えを出せないまま、小さく息をついた。世界はいつもの音を立てて回り続け、時空電鉄の本棚はただ、静かに扉を閉じたように見えた。
いつのまにか、エマの記憶はなくなっていて――彼女のメモリーズブックは、時空電鉄の本棚にしまわれたようだった。




