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彗星

作者: 海星

 叔父が亡くなった。

 といっても90歳過ぎまで元気で動き回っていたから男では長生きな部類だろう。


 叔父と言ってもややこしい。

 祖母の姉と結婚した。

 「遠い親戚じゃないか」

 叔父には子供がなかった。

 だから、従兄弟が養子に入った。

 だから『祖母の姉の配偶者』でもあり『従兄弟の父親』でもある。

 結局、自分とはどういう関係なのか?

 私もややこしくてわからない。

 

 叔父は退職教員として亡くなる半年前まで、全国を飛び回っていた。

 80歳を過ぎた頃に『もう少しゆっくりしたら?』と口を挟んだ事がある。

 叔父が戦争について語ったのは後にも先にもあの時だけだ。


 戦時中、叔父は『彗星』という爆撃機の操縦士だったらしい。

 そうは言っても叔父が操縦士になった頃には日本は敗走につぐ敗走で爆撃する機会などほとんどなかったのだが。

 終戦間際、爆撃機の操縦士達にも『玉砕』命令が出た。

 所謂『最後っ屁』だ。

 アメリカの戦艦などに飛行機ごと突っ込む。

 『神風特攻』というヤツだ。

 叔父も例に漏れず特攻する直前に、叔父の親友になった男が「上官殿!○○は教師であります!必ずや教育で日本を救ってくれます!」

 そう名乗り出てくれて叔父は玉砕のメンバーから外れた。

 これから玉砕する仲間達に

 「家族を頼んだ!」

 「日本を頼んだ!」

 「俺の分まで生きてくれ!」

 などなど、口々に言われて『未だに頭から離れない。頻繁に夢に見る』と。

 『神風特攻』した人らも、普通の家族を愛する人間なのだ。


 叔父は「その光景が頭に残っているうちに『休む』なんて出来ない」と語った。

 『年代物のワープロ、今時こんなモノを使ってるのは叔父さんぐらいだ』

 私は一生懸命、当時を文章に残そうとしていた叔父さんを笑ってしまった。

 叔父さんは聞かないと当時を話さなかった。

 『人に自分の思想を押し付けるのは最低だ』と。

 ひたすら当時の記録を文章に残した。

 失礼な話だが、私は若い頃『叔父さんは呪いに取り憑かれているようだ』と思っていた。


 「叔父さんに生き残って欲しい」と玉砕前に上官に言った親友の気持ちが知りたい。


 私にも『自分がたとえ死んでもアイツだけには生き残って欲しい』と思える親友がいるだろうか?

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