カーストトップの美少女なのに体育祭の祝勝会に出ない
「良かったのか、参加しなくて」
「え、うん。大丈夫だよ」
楽しそうにお好み焼きを焼くのは江島 紗良。
「クラスの奴に陰口言われても知らないぞ」
「心配してくれてるの? 付き合いが悪いのなんて今更じゃない。ふふっ」
「なにがおかしいんだよ」
「おかしいんじゃなくてうれしいの。気を使ってくれてありがと」
俺は江島の笑顔を直視できず、目を反らす。
今日は体育祭の祝勝会。クラスのほとんどの人は焼き肉を食べている頃だろう。
俺は当然断った。クラスの空気が合わないからな。
だが、不愛想な俺と違って江島は人当たりの良い美少女。
クラスの中心にいる人物。カースト上位グループにいるのだ。というか、女子のトップ。
その江島が断ったのは意外だった。祝勝会に行きそうなイメージだったからな。
クラスの底辺とトップ。
なぜ対極の位置にいる二人が一緒に晩御飯を食べているのか? 答えは友人だからだ。
信じられないかもしれないが、事実。江島から友人認定してたからな。
俺みたいなぼっちは友達の基準とかわからんぞ。
俺が嫌々所属しているクラスはオタク受けが悪い。
男はチャラいか、運動系だしな。女子もまあそんな感じ。
だから江島は自分のオタク趣味を隠している。クラスの雰囲気に合わないことがわかっているからだ。
でも誰かとオタク趣味を分かち合いたい、ということで俺と仲良くなったわけだ。
クラスメイトは知らない秘密の関係。
俺と二人のときはオタク全開である。
まさかカースト上位の女と気が合うとは思ってなかった。まあ江島だけだろう。例外というやつだ。
二人でお好み焼きを食べていると、急に江島の手が止まった。
「いつも金曜の夜に一緒にいることが多いけどさ、今日が体育祭だから昨日は遊ぶのやめといたよね」
鉄板を見つめながら寂しそうな顔をしている。
「なんか心にぽっかり穴が開いたみたいな。……物足りない気持ちになったんだ」
「そうか。俺は体育祭が嫌すぎてそのことで頭がいっぱいだったわ」
「ふふふっ。中田くんらしいね」
顔を上げた江島はいつもの明るい表情になっていた。
「だから――ね、今日こうして一緒に居られてうれしいの」
「お、おう。そうか」
こいつはよく恥ずかしげもなく言えるな。聞いてるこっちが照れるわ。
もしかして、俺のこと好きなんじゃね? と勘違いしそうになる。
「まあ俺も江島と一緒にいるのは好きだぞ」
気づいたらとんでもないことを口にしていた。
俺のほうが恥ずかしいこと言ってるわ!
「え? え、す、好き?」
キョロキョロ、あわあわ。
動揺してる姿を可愛いなってそんな場合じゃない。弁解だ弁解。
「わ、わたしも好きだよ」
俺よりも先に江島が口を出した。
「え?」
「え? あ、あああっ!」
顔を真っ赤にして更に動揺する江島。
これは期待していいのか、確認する。
「それはその、どういう好きなんだ?」
「その、わたしの好きは異性としての好きって意味で――――ってわたしばっかり自爆してる! ずるいよっ!」
この後、俺と江島はグダグダな告白イベントを終えて付き合うことになった。