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壁の向こうは死者の楽園
1989年11月9日。
歓声が響く。ハンマーが打ち込まれ、レンガが砕ける。
ベルリンの壁が崩れる。人々は自由を手にした。…と思った。
最初に境界を越えたのは、青年だった。東ベルリンから、重い息をつきながら瓦礫を踏み越える。向こう側の人々は、彼に拍手を送った。
…その数秒後、彼の首が吹き飛ぶ。
誰もが見た。
誰もが悲鳴をあげた。
瓦礫の奥から、くすんだ軍服をまとった何かが、よろよろと現れる。
肌はただれ、目は虚ろ。死臭を漂わせた兵士たちが、にじり出てきた。
東でも西でもない。壁の向こうにいたのは、30年間そこに封じられていたゾンビの軍団だった。
「これは、ソ連の秘密兵器だ!」
「いや、アメリカの生物兵器だったんだ!」
誰もが叫び、誰もが撃ち、誰もが噛まれた。
壁の崩壊は、封印の解除だったのだ。
三日後。ベルリンは無人となった。
壁の残骸の一部に、落書きが書かれている。
Freiheit war eine Illusion(自由は幻想だった)
「我々は壁を壊したのではない。棺を開けたのだ‥」