EPI.04 チャット
YUTA:久しぶり
DSK :久しぶり
YUTA:半年ぶりだけど、元気だったか?
DSK :うん、特に変わりなし
YUTA:変わりなし、ってことはないだろう
YUTA:ニュースでもやってたぞ
YUTA:13年ぶりの新しい生命の誕生
YUTA:NGPにとっては大きな成果じゃないか
DSK :プロジェクトとしての成果ではあっても
DSK :僕らにとってはあまり関係のない話だからね
YUTA:そうなのか?
DSK :僕たちはファウンダーであって、父親ではないから
DSK :子どもが生まれても、誰が誰の子どもか認知することは許されないし、実感もない
DSK :NGPが本格始動して、スケジュールが大幅に組み直されはしたけれど
DSK :やってることは半年前とあまり変わらないよ
YUTA:意外だ
DSK :兄ちゃんはのほうは何か面白い話ない?
YUTA:あまり大したことじゃないかもしれないけれど
YUTA:生まれて初めて、デートっていうのを体験した
DSK :うそ
DSK :相手は誰?
DSK :万鈴ちゃん?
YUTA:いや、同級生の子
YUTA:万鈴もいたけど
DSK :どうだった? 楽しかった?
YUTA:よくわからなかったけど、他人のことを深く知るっていうのは
YUTA:新鮮な感覚だったよ
DSK :いいなあ
DSK :僕もデートしてみたい
YUTA:お前はそれ以上のことしてるだろうに
DSK :いや、それは
DSK :【この文章は削除されました】
DSK :ごめん、検閲入った
DSK :書き直す
DSK :それは、僕のはお勤めだから
YUTA:俺には分からないことだけど、やっぱり大変なのか?
DSK :そうだね、少し大変かな
DSK :ただ、身体のほうは初めのころと比べるといくらか慣れてきたと思うよ
DSK :痛いこともあまり無くなってきた
DSK :大変なのは精神的なところ
YUTA:たくさん経験を積んでも、まだ慣れないものなのか?
DSK :慣れないよ
DSK :大人の女性に泣かれるっていうのは
YUTA:えっ
YUTA:泣かせてるのか?
YUTA:お前が?
DSK :もちろん、ひどいことをしているわけじゃないよ
DSK :最初は特に何事もなく進むんだけど、終わった後、突然泣き出してしまう人がいるんだ
DSK :だいたい、三人に一人くらいの割合かな
YUTA:どうして?
DSK :分からない
DSK :いや、分かるような気もするし、まったく見当違いのような気もする
DSK :今プロジェクトで相手をしている女性は30歳前後くらいの人が中心なんだけど
DSK :終わった後、意識が記憶の世界に溶け込んでいるみたいにぼんやりしている人がときどきいて
DSK :不意に堰を切ったみたいに泣き出しちゃうんだ
DSK :慰めようとしても、ごめんなさいって繰り返すだけで僕にはどうすることもできなくて
DSK :その様子を見ていると、心が苦しくなる
DSK :それが、少しつらい
YUTA:そうか
YUTA:えっと
YUTA:大変かもしれないけれど
YUTA:お前が今やっていることは、絶対に立派なことだ
YUTA:俺には何もできないけれど、いつでもお前を応援しているよ
DSK :ありがとう
DSK :一番心強い応援だ
YUTA:大げさだな
DSK :大げさなんかじゃないよ
DSK :泣き虫だった僕が、家族のもとを離れてひとり生活できるようになったのは兄ちゃんのおかげなんだから
YUTA:ファウンダーであるお前と違って、俺はただの一般人だぞ
YUTA:俺のどこにそんな要素があるんだ
DSK :自覚がないのかもしれないけれど
DSK :兄ちゃんは、世界で一番かっこいいヒーローだよ
YUTA:いくらなんでも、心当たりがなさすぎる
DSK :(笑)
YUTA:ヒーローというなら、間違いなくお前はヒーローだよ
YUTA:日本中の期待の星だ
YUTA:学園の女の子もみんな、お前に憧れていたよ
DSK :僕がヒーロー?
YUTA:そう、ヒーローだ
DSK :なれるかな。ヒーロー
YUTA:なれるさ。きっと
DSK :ありがとう、兄ちゃん
DSK :実は少し悩んでいたことがあったんだけど、おかげで心が楽になったよ
YUTA:そうなのか?
DSK :うん。決心がついた
YUTA:それは良かった
DSK :あ
DSK :ごめん、そろそろ時間みたいだから
DSK :ルームメイトにPC譲るよ
YUTA:分かった
YUTA:また連絡くれるの待ってるよ
DSK :えっと
YUTA:ん?
YUTA:どうした?
YUTA:おーい
DSK :ごめん、なんでもない
DSK :うん
DSK :また今度
YUTA:ああ、また今度
【相手との通信が切断されました】