認識阻害眼鏡
とりあえず3冊分、イーブン語にした原稿をもって、ヒューの商会に来た。
「あっ! ジェシカ! 久しぶり!」
誰?
茶色の短髪に茶目。
ちょっと前に、この色を持つ人に放置されたな
でもこの人、細身でスラッとしている
手を伸ばしてくるので、ぺしっと払い、距離をとる
「はは。相変わらず、素早い動きだね。僕だよ!ヒューバード!」
ヒューは、アリアの好きな金髪碧眼だったはず・・・
「色が違うわ。軽い物言いは似てるけど」
「この眼鏡の効果なんだ!」
そう言って眼鏡を外すと、私の知っているヒューになった。
「これをローレンスが用意してくれたから、受け取りにアーブンに行ったんだ。もう行きたくないけどね」
「もう1度眼鏡かけて」
「うん」
本当にヒューじゃなくなるわ。
これなら生きやすくなりそうね。
「名前は変えないの?」
「そうなんだよねぇ・・・って、もしかして僕の事情知ってる?」
「少しだけ・・・」
「じゃあ、ジェシカが名前つけてくれる?」
「・・・・・ゴンザレス」
「・・・・・それはちょっと遠慮したいな」
じゃあ聞くなと視線を送る
「ヒューバードなんて珍しいわけでもないから大丈夫かなと思ってたんだけどね」
「・・・・・ルーファス」
「まともだね。・・・好きだった人の名前とか?」
「2作目の犯人の名前」
「犯人・・・」
「・・・ヒューみたいにルーって呼べるかなと思って」
「・・・可愛いこというね。好きになっちゃいそう」
「・・・」
「じゃ、この眼鏡してる時は、ルーって呼んで」
「気が向いたらね、ルー」
「ははっ」
その後は、ルーが読み終わるまで、商会の商品をみたり、珍しいお菓子を用意してくれたので食べたり、お茶を飲んで待っていた。
「お待たせ。1冊分しか読んでないけど、面白かったから本にしてみようと思う。僕から提案があるんだけど、本に絵を入れてみない?」
「絵」
「挿絵っていうんだけど、犯人の感情を描いた絵、被害者が恐怖に満ちた顔の絵、この物語の舞台の風景とかを所々に入れてみるって感じかな」
「ちょっと描いてみてよ」
「僕はあまり上手くはないけど、こんな感じって説明の為にやってみるね」
真剣に描き始めたルー。 真面目にもなれるのね。
気になってちょっと覗いてみたら、何を描きたいかは伝わるけど、あまりに下手な絵に笑ってしまった。
「ちょ、ちょっと笑うなんて失礼だよ、ジェシカ!」
え? 私、笑ってる?
確認の為に口をさわる。
本当に笑ってたみたいだわ・・・
「・・・笑ったなんて、久しぶりかも。」
でも、ルーの描いた絵をみると
「これ犯人から逃げてる人でしょ?こっちは犯人。伝わってくるけど、あはは、面白くて。笑っては失礼だから、笑ってはダメって思うと余計におかしくって、あはは」
「・・・ジェシカが楽しいなら、まあいいけど。要領はわかったでしょ?今度はジェシカがやってみなよ!」
ペンを渡され描いてみる。
「ぶっ」
「・・・笑うなんて、失礼ね」
「僕のと比べてみなよ! よく僕の絵を笑えたね」
2人の絵を並べてみる
確かに私の絵は、人かどうかもわからないわね
「ふふ、あはは」
その後も2人で絵を描き、だんだん本とは関係ない絵を描いては、あまりの下手さに、たくさん笑った。