結局、巻き込まれる
歩き出してしばらくすると、後ろから声をかけられる。
「すみません、助けて下さい」
ムシ
「すみませーん」
隣国の言葉ね。
助けてもらいたいのはこっち。
2時間くらい歩く予定なのだから。
「可愛い彼女!こっちを向いて!」
ナンパの仕方も下手くそ。 最低ね、絶対振り向かないわ!
「さっき、男といたよね~ 馬車から降りたら、文句言われて君を置いて男は帰ったよね~。僕と同じくらい可哀相だったけど、笑えたな! あはは」
振り返り、足を捌いて相手に尻もちをつかせる。
「あんな男、こちらから願い下げよ。言葉が理解できてないと思った? 理解してるわよ!言いたい放題してくれたわね! ん?」
何が起こったかわからず、びっくりして目を見開いてる男は、さっきの奴だ!
「あー! あなた、色々助けを求めて断られていた人ね!私はあなたに頑張れ!とエールを送ってたのよ?お互い困ってるけど乗り越えましょう!って。それなのにあなたは笑ってたのね・・・最低!!もうついてくるな!クズ、バカ、ゲス野郎!!」
言いたいことを言って歩き出す。
「あ、待って! いや待って下さい!お願いします!」
ムシ
「本当にすみませんでした。言葉が通じなくて困っていて、あなたも話しかけても反応がなかったから・・・笑えたなんて言ってすみませんでした。本当にすみません」
止まり、振り返りる
「お困り事の内容は?簡潔にね」
パッと顔を輝かせた。
「とてもお腹が空いてます。お金はあるのですが自国の紙幣しかありません。お腹が満たされたら大使館に行きたいのですが場所がわかりません。」
両手をお腹にあて空腹アピールしてる男。
「・・・これで良かったらどうぞ」
しぶしぶ、私の大事な食料を差し出す。
「ありがとう!!・・・ございます?・・・あの?」
渡したくないと心が叫び、指が離れないわ
「・・ダメですか?」
男のしょぼくれた顔を見て、仕方がないと力を抜き、手から離す。
「ありがとう!」
パクパク食べる男を観察すると、切り傷や擦り傷が結構ある。服は汚れていたり、破れていたりするけど元は上等なモノね。
「・・・あなた、護衛はどうしたの?」
「!!」
「・・人が近づいてくるわ。1人、2人・・・3人はいる音ね。あなたの護衛?それとも敵?」
「・・・敵だと思う」と言って立ち上がり、私の前に立つ
「少しは戦えるの?」
「剣があればそこそこなんだけどね。」
・・・剣があってもへなちょこそうね。
私1人の方がいいわ。
「あそこに見える高い塔。あの塔は大使館の近くにあるの、あそこを目指して行って!」
「君は?」
「どうにかするわ」
「ハア、ハア、 僕も一緒で良かったね!」
「ハア、ハアどんだけ恨みをかってるの?倒しても倒してもわいてきたわ」
3人だけだと思った追っ手は、2人で倒し、少し進むと、また出てくるの繰り返しだった。
やっと大使館に到着した時には、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ヒューバード!? 無事だったか!! 心配したぞ!!
ん? ジェシカか?」
「どうにかね。ジェシカって名前なんだね?ありがとう!」
「あなたはヒューバードって言うのね、どういたしまして。殿下もこんばんは」
「何がどうなって、こうなったのか説明しろ!!」
「「とりあえず水と食料を下さい!」」
「~~~!!」
喉を潤し、腹を満たした後の2人の話を聞いた殿下は呆れていた。
「まず、ジェシカ、ジェームスの件は有り得ないな。君は頭も良く、剣も強いのにな。放置するなんて騎士として最低だ。後で罰を与えておく。もちろん、婚約の話は無かったことにする。 だがその後はいただけん、君は女性なんだ。あまりムリをするな!任せている仕事に支障がでたらどうするんだ!」
なっ! 仕事をさせるためじゃないの!
私はこの第3王子ローレンスから翻訳の仕事を請け負っている。他からの翻訳の仕事より、殿下からの仕事をこなすのが、1番稼げるのだ。
「いやー、ジェシカの語学力はすごいよ!僕の国の言葉でたくさん罵ってもらったよ!体術もセンス抜群!相手を蹴り上げる度に、ちらっと見えるピンクのパンー痛っ」
殿下が頭を叩き、最後まで言わせず、私は文句を言う。
「それはあなたの態度が悪いからでしょ! それにあなたはエールばかりで、あまり役には立たなかったし!必死だったのに!」
「まあ、落ち着け、ジェシカ。とにかくヒューバードをここまで連れてきてくれて感謝する。ロデリックがその内迎えに来るだろう」
「・・・はい、ありがとうございます」
迎えにきた兄は、ボロボロの私を見て驚き、体に怪我がないか前も後ろも確認してから殿下に向かって
「私の妹をここまでボロボロにするなんて酷いですよ、殿下。妹に依頼してる仕事は、当分の間、報酬2倍でお願いします。妹は国を出たがっているので資金も必要ですし。では失礼します」
「・・・・・ぷっ」
「笑うな! ヒューバード! お前がジェシカを巻き込んだのに、どうして私が怒られるんだ!? 2倍はぼったくりだろう・・・」
嘆くローレンスであった・・・