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ジェシカ・トレバーの日常  作者: ぱんどーる


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番外編 ローレンス 1

毎日がつまらないと思いながら、学園に通っていた。

いくら断ってもめげずに、近寄る女性達。 たまに強く拒絶をすると、すぐ涙を浮かべる。そしてその後は被害者面をする。


いやいや、被害者は俺だ。勘違いはやめてくれ。


この学園にまともな女はいないのか?

俺は3男だ。 王位に就く予定もないし、なりたくもない。なのに、何を期待しているんだ? 平和なこの国を政争で混乱させたいのか? いや、すでに長兄と次兄は争ってるな・・・。更なる混沌に俺を巻き込むな。面倒くさい。そんな付き纏われる学園生活にうんざりしていた。


耐えに耐え続け、最終学年になった。 あと1年を乗り切れば、くだらない学園生活とおさらばだ。そんな事を考えながら新年生の入学式を終えた。


教室へ歩いていると、

「ローレンス殿下、このまま私の部屋に来てくれるか?」

学園長から声をかけられる。

「 ? わかりました」

この学園長は父上の弟にあたる人だ。 王宮内のプライベートな場所では話をよくするが、学園で話しかけてくるのは珍しかった。


歩きながら小声で、

「何か問題でも起きたのか?」

「いや。 今日入学して卒業しようとしている女子生徒がいてな」

「はぁ?」

「優秀だから、王宮勤めを進めたんだが断られてね。 加勢してくれ」

「本当に優秀なのか?」

「ああ。 テストは満点だった。 お前が1箇所間違えたあのテストだ。 お前が塗り替えた記録は、彼女が更に塗り替えた」

「へぇ。 でも怪しいな。 もう1度テストを受けてもらおう。 違うのを用意してくれ。 俺が見張って俺が採点する」

「はは、悔しいのか?」

「ふん、別に」


学園長はテストの用意に行った。

1人になったが、構わず中に入る。

さて、どんな女か確かめてやるか・・・。


「失礼する」


ソファに座っていた女は、俺の顔を見ても無表情で背筋を伸ばしていた。

人をダメにすると言われる叔父が選んだソファに、よくそんな姿勢で座ってられるな・・・。


っていうか、何故このソファがこの部屋にあることが許されている!? 王宮にある自分の部屋だけにしとけよ。

ふざけてるだろ、叔父上め・・・。



明るい茶色の髪を高い位置で1つまとめ、緑色の瞳。澄ました顔をしているが、目が少しタレているからか、ツンとしたイメージはないな・・・。


「ローレンス・アーブンだ」


俺の名を聞いて、ほんの少し動揺が見られたが、他の奴が見ても気づかないレベルだろう。


「申し訳ございません。 お顔を拝見したのが初めてでしたので気付けませんでした。 ジェシカ・トレバーと申します」


スッと立ち上がり、きれいなカーテシーをした。


いやだから・・・、そのソファからどうしてそんなに急に立ち上がる事が出来るんだ? 人をダメにするソファだぞ?


「・・・座ってくれ」


俺も対面のソファに腰掛ける。同じくコレも人をダメにするソファだ。 悔しいから俺も背筋を伸ばす。かなりキツいな。体をソファに預けたい気持ちになるが、ぐっと堪える。


「飛び級したいそうだな?」

「はい」

「申し訳ないがもう1度、俺の前でテストを受けてもらい、俺がその場で採点する。いいか?」

「わかりました」


理不尽な事を言われて、感情が顔に出るかと思ったがそのままだった。


学園長が1人分の机と椅子を持ちながら部屋に来た。

彼女はすぐに立ち上がり、「よいしょ、よいしょ」と運ぶ叔父を手伝う。


だからそのソファは・・・。


しかも机も椅子も軽く持ち、


「どこに置けばよろしいですか?」

「えっと、うん、そこでいいよ。 いいかい? ローレンス」

「・・・ああ」


机と椅子を軽く持つ彼女に驚き、すぐに体が動かなかった自分がなんか恥ずかしかった。


「このまま始めてもよろしいですか?」

「ああ、始めくれ」


学園長が用意してくれた茶を飲みながら、テストを受けている彼女を眺める。 なんだか机に向かう姿が絵になるな。


学園長がソファにどかっと座る。 茶をひと口入れ、ふぅーと息を吐きながら、だらしなくソファにもたれる。


そうだよな!? このソファの役目は人をダメにすることだ。このソファだって、今役目を果たす事ができて、ホッとしているはずだ・・・。

よっこらせと叔父が起き上がり、ふた口めを含んだ時、



「終わりました」


「はぁ?」

「ぶほっ」


俺が王子らしくない声を出して、叔父は茶を吹き出した。




早すぎるだろっ!? 10分くらいしか経ってないぞ!

思い切り驚いてしまった後だが、冷静を装い、採点を始める。


・・・・・・。


満点だ・・・。 本物だ。


隣で叔父も驚いた顔をしている。


「こほん、前回も今も満点だ。 見事だ。 王宮で働かないか? 君のような才女がいてくれると我々は助かるのだが・・・どうだろうか?」


俺らしくない、言い回しに叔父がまたも吹き出す。

こっちはまだ動揺してるんだ! 笑うな!


「申し訳ございませんが、お受けすることはできません。 この国から出たいと考えておりますので」


この才女を他国に出すのは勿体ないな・・・


「では、1年だけでも学園に通わないか? 私と同じ3年生をやらないか?」


はぁ? 俺は何を言ってるんだ? 自分に疑問を投げかける。


「申し訳ございません」


「ははっ、さっきから申し訳ございませんばかりだな。俺だって飛び級してこんな所、さっさとおさらばしたいのにお前だけズルいだろ?」


ひとつも申し訳ないと思ってなさそうな顔で断り続けてくるから、思わず俺の素が出てしまった。


彼女は目をほんの少し丸くしたが、

また「申し訳ございません」と言って顔を伏せるだけだった。


俺も意地になって、


「いーや、許さん。 きちんと理由を言うまで学園に来い。 俺が卒業を認めん」


「おい、ローレンス。横暴がすぎるぞ。 すまないね、トレバー嬢」


「いいえ」


「でもそこまで拒否する理由を教えてもらえるとありがたいのだが・・・。 もちろん卒業は認めるよ。 ローレンスにそんな権限はないから安心してくれ」


ちっ、余計なことを・・・。


彼女が茶を飲み、喉を潤してから俺達に目を向ける。


「「 ! 」」


何故か叔父と俺の背が伸びる。

な、なんだこの圧は・・・? 背中に汗が流れる。実は他国の王族とかなんて事はないだろうな・・・。


「お恥ずかしいお話なので、ここだけにして頂きたいのですが・・・私は感情を表に出すことができません。 学園で皆様にご迷惑をかけると思ったので飛び級制度を使わせて頂きました。 この国を出たいのは、本を売る為です」


雰囲気にのまれそうになる。 言っている事は、大した事ではなかったのに、とんでもない秘密を聞いてしまった気分だった・・・。


だが、俺も張り合う!


「なら、俺がお前を笑わせたら、同級生になれ」

「ロ、ローレンスどうしたんだ? お前らしくないぞ?」


「わかりました」


よし、言質はとった!

意気込み色々としてみたが・・・



「あーはっはっ! お前面白いな! あー楽しい!」



涙を流し、腹を抱えて笑っていたのは叔父だけだった・・・。

スンとした表情で俺を見る彼女に、俺は膝から崩れ落ちた・・・。


そんな俺を見て、更に声をあげ、爆笑中の叔父の声だけが部屋に響いていた・・・。


こんな屈辱的な思いをしたのに、俺は彼女が気になってしまった。


俺の片思いはここからはじまった。

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