姉の結婚式で昔を思い出す
「ふふ、ジェシカ。やっと来たわね。私、今日もとっても素敵だと思わない?」
モデルのように歩いて来て、私の目の前でUターンをし、数歩進んで止まり、上半身と顔をこちらに向け、キメ顔。
「・・・ええ、お姉様とても綺麗です。」
「今日から、次期公爵夫人よ!困ったことがあったら相談してくれてもいいわ。」
「・・・ありがとうございます」
私の姉、スカーレット。だいたいこの会話で分かってもらえるだろうか。姉は自分が大好きで自信を持っている。まぁ、悪い人ではない。
いじめられた事もなければ、何かあっても助けてもらった事もない。
お互い干渉してないのだ。
ずっとではないが、昨日まで同じ屋根の下で暮らしてきたのに、顔を合わせる事がほとんどなかった。
姉は、母の影響で、高位貴族に嫁ぐ事を目標に、マナーに会話にダンス等、努力をしてきた人。
その甲斐あって公爵家の嫡男と今日、結婚をする。
その影響を与えまくった母、マーガレット。
母の生家は公爵家。
母は王族との結婚を狙っていたそうだか、結果は選ばれず。
粘りに粘りすぎて、気がついた時には、周りは婚約者がいたり、すでに既婚者だったり・・・。
どうにか伯爵家の父 (余り物の中では1番だった) を捕まえ伯爵夫人に。娘こそ!と意気込み、生家の養女にして今度こそ王家へ!と画策したが、養女になる事もなく、またも上手くいかず。
そこで自分の失敗を思いだし、早めに切り替え、今日があるらしい。
次はあなたよ!と、私にはこなかった。
控え室から出て、参列する。
花婿の様子を見れば、本当に心待ちにしていたのだろうと思われる。
花嫁が祖父と歩いてきたら、笑顔になった。
上手く行きそうね。それならそれで良いことだ。
そう、それよりもエスコートしてるのが祖父ということだ。父はいるのだ。でも父はかなり趣味人間な為、姉が並んで歩く事を拒んだ。いつもはふわふわとした髪に眼鏡をかけているが、今日は髪をなでつけ、眼鏡は外し、なかなか様になってるから、流石に父が可哀相と思ったが、父に目を向ければ、手帳とペンを持って何やら書きとめていて、全く花婿花嫁を見てない・・・
可哀相と思ってやったのに、あの父を見ると姉の気持ちも分からなくはない。
祖父は元宰相。姉は隣を歩かせるなら肩書きが良い方が良かったのだろう。
姉は祖父とも関わってこなかった。だから、笑顔で祖父を見上げることができるのだろう。私には絶対ムリ!
私には年子の妹もいるのだが、生まれた時から病弱で、屋敷中が妹にかかりきりで、私は放置されていた。いや、忘れられていたのだろう。
それを5つ上の兄が (姉は6つ上) 当時6歳のくせに、この家にいたら1歳の妹は死んでしまう!と思って祖父の家に連れて行ったのだ。
それからある程度まで祖父の家で育った。
スパルタ教育付きで・・・
妹をよろしくお願いします、ペコリとして帰ろうとした兄の服を私は離さず、道連れにしたらしい・・・
それは結果、良かったのだ。
あんな地獄の生活、1人じゃムリ!
まだ自国の言葉すら、たどたどしい孫に、3カ国語を習得しろと言う?
歴史書を頭に乗せ歩けなんてムリ!まだ2本足で立ちはじめたばかりじゃ。
(兄にある程度の年になってから教えてもらった)
祖母は、隣国で女性騎士として活躍した人で、剣術、体術を仕込んできた。
兄は更に色々とやらされたらしい。
苛酷な生活の中で私達はサインを決めた。
兄と目を合わせて、耳をさわる〔大丈夫〕
兄と目を合わせて、顎をさわる〔ヘルプ〕
このヘルプを使って、何度兄に助けられか・・・。
あまりのスパルタっぷりに兄と私は表情が消えた。
兄が学園が始まる、と逃げようとした時に、私はまたも服を離さず、兄と一緒に伯爵家に戻った。
「ジェシカ」
兄の声だ。
顔を上げると壁に寄りかかって腕組みをし、呆れた顔をしている。
「もう式は終わってるぞ」
周りはもう誰もいなかった。昔の事を思い出している内に終わっていたらしい。
「次はパーティーだ、行くぞ」
「はい」と立ち上がり、兄の手をとり移動する。
この兄も良かれと思ってした行動で何年も私と共に地獄を味わうとは思っていなかっただろうな。
「次はお兄様の番ね。いい人はいるの?」
「あの父を理解してくれて、あの母と上手くやってくれる人がいると思うか?お前達だっているんだ。当分ムリだろうな。はは」
「なんか申し訳ないわね、ふふ」
そんな会話をしながら、パーティーに向かい、適当に時間をやり過ごした。