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Blue Bird Blazon ~アルスの旅~  作者: 五十鈴 りく
第4章 君を想い
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12◆経路

 置いてきたグロリアたちが追いかけてくる前に、アルスたちは足早に宿を離れる。


「できれば町を出る前に怪我をした兵士を見舞いたいが、身分を隠したままでは難しいんだろうな」


 一命は取り留めたというが、気がかりではあった。

 アルスがそんなことをつぶやいていると、ラザファムは首を振る。


「ええ、無理でしょう。名乗らずに入れてもらえるようなところにはいないでしょうし」

「そうだな……」


 昔からアルスは剣を振り回してばかりいて、兵士たちの世話になることが多かった。

 父には訓練の邪魔をするなと叱られたが、アルスとしては邪魔ではなくて一緒に訓練しているつもりだったのだ。


 だから、兵士たちには顔見知りも多い。長じてからは幼い頃ほど自由は利かなくなっていたけれど、それでも顔を出せる時には出していた。

 もしかすると、言葉を交わしたことのある相手かもしれない。アルスはただ、負傷兵の回復を祈った。


「買い物をして支度を調えたら、すぐに町を出ましょう」


 ラザファムはこの町に長居したくないようだった。それはグロリアのせいばかりではなかったのかもしれない。言葉に出して何とは言えない、ぼんやりとした不安である。


 買い物は食料品だけかと思いきや、衣類も選んだ。

 アルスはファーのついた裏起毛のコートを買うことになったのだ。


「ここからはもっと冷えますから、アルス様の恰好では凍えてしまいます」


 ――とのことだ。

 ラザファムもローブの上から羽織れる外套を買った。


 それから、天幕が並んだ露店へ移動する。

 そこで何を買うのかはアルスが口を挟んでも、大体がラザファムによって取捨選択がなされ、ほとんど採用されなかった。通ったのは今日食べる昼食くらいである。


「アルス様が日持ちのしないものばかり選ばれるからいけないんです」

「日持ちって、どこで決まるんだ?」

「簡単に言うと水分量ですね。干したり焼いたり、水分を減らしたものは長持ちします」

「ふぅん。なるほどな」


 ひとつ学んだが、ここでもナハティガルは余計なことを言う。


「アルス、そんなことも知らないで旅立ったんだから無謀もイイトコだよ」

「ぐっ……」


 そんなわけで、結局ラザファムに頼りっぱなしになってしまう。ラザファムはリュックの中に食料を詰め、それを背負いながら言う。


「それでも、随分遠くまで来ましたけどね」


 そうなのだ。

 このヴァイゼが北へ進む最後の町となるのだから。

 そのせいなのか、ラザファムの表情が険しい。


「どしたの、ラザファム?」


 ナハティガルもそれに気づいて首を傾げる。傾げすぎてアルスの肩から落ちかけた。


「いや……。ふと、魔獣が出たのはどの経路でなのか考えたんだ。魔の国(ラントエンゲ)から流れてきたのなら、まずノルデンかレプシウス帝国最北のハルツェンのどちらかを経由したんだろう」


 考えをまとめるための独り言のようにつぶやいていた。

 レプシウス帝国は、魔の国と自国の境にハルツェン砦を構えている。ラザファムは、魔獣たちがハルツェン砦を抜け、そこからレプシウスの国土を横断し、さらにシュミッツ砦を経由してレムクール王国へと入り込んだ可能性も考えてみたようだ。


「レプシウスの砦は対人であれば落としにくいが、魔族が相手となるとレムクールよりも脆いだろうな。精霊の加護はなく、セイファート教団ゼクテ派の祓魔師がいるだけだし……」


 アルスも考えてみたが、はっきりとしたことはわからない。

 ラザファムが矢で対抗したように、武力による攻撃もまったく効かないということはない。レプシウスには武人がそろっているから、祓魔よりも地道な攻撃で撃退していると考える方が合っている気がした。


「ええ。ただ、どちらも経由していない可能性もあるのではないかという気がして。それが一番の問題なんです」

「どちらも通っていない?」


 そこでアルスは二年前のこととナーエ村でのことを思い出した。人型の魔族は急に現れたのだ。力を持つ魔族ならば空間を捻じ曲げるようなこともやってのける。そうした魔族が魔獣や蟲を運んできたとしたら、砦や国境の警備など意味がない。

 アルスはそれを考えてゾッとした。


「それって、どこに出没するのかわからないってことか?」

「残念ながら。憶測であってほしいのですが」


 と、ラザファムも苦々しい面持ちになった。

 やはり、精霊王の力が弱まり、魔族がレムクール王国に立ち入りやすくなったということなのか。


 真剣な話をしているというのに、ナハティガルは毛づくろいをしていた。


「だからさ、チャッと行ってチャッと帰ろうよって話」


 とてもシンプルな結論ではある。アルスは苦笑した。


「そうだな。次は……えっと、ローベ村だったな?」

「はい。この先は絶対に野宿はなしです。魔族が出る上に寒くて体が持ちませんから。ローベ村までなら馬車も使えるとは思いますが」


 すると、ナハティガルが飛び跳ねた。


「ボクは馬車がいいと思いまーす!」

「お前、私に乗っているだけじゃないか。馬車でも歩きでも疲れないだろう?」

「馬車の方が誰かさんが寄り道しにくいからぁ」

「さあな。それはどうかな」

「ちょっとお行儀よくしてなよ。また馬車から放り出されるんだから」


 そんなやり取りを聞き、ラザファムは呆れたように目を細めていた。


「……馬車から放り出されるような客はそうそう見たことがありませんね」

「世の中にはいろんなことがあるんだ」

「それはアルス様だからでしょう?」


 馬車に乗ると、ラザファムとナハティガルからクドクドと説教をされそうな気もしたが、早く着けるのならば耐えるべきだろう。アルスは観念して馬車乗り場へと向かった。


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