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Blue Bird Blazon ~アルスの旅~  作者: 五十鈴 りく
第3章 心を支えて
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16◆着けない

 遠くからノルデンが見えた。

 なんて寂しいところだろうとアルスは胸を痛めた。

 それでも、クラウスに近づいた。少しずつ近づいている。そう思えるだけでアルスの体に生気が満ちるような気がした。


 クラウスがもし苦しんでいるのなら、その苦しみを分かち合えたらいい。何も変わらない、昔のままだと、手を取って言えたらいい。


 アルスはしばらく無言でノルデンの方を眺めていた。ラザファムも、うるさいナハティガルでさえもこの時は何も言わなかった。


 苦労した峠も下る時は下り坂で随分楽に思えた。ラザファムはずっと魔族を警戒していたけれど、もう蟲に襲われることはなかった。

 ただし、問題がまったくないわけではない。


 峠越えに時間をかけすぎては野宿になると言われていた。峠を越えた時はまだ明るく思えたけれど、少し歩いただけで夕暮れの気配が近いとわかる。認めたくはないけれど、多分間に合わない。


「次の村までまだかかるんだろうか」


 アルスがラザファムを見上げると、ラザファムはひとつため息をついた。顔に少し疲れが見える。


「そうですね。予想以上に時間がかかってしまったのは事実ですので……」

「まあな」

「でも、もしかすると間に合うかもしれませんし、急ぎましょう」


 ラザファムはそう言ったけれど、アルスはきっと無理だと思った。ここから村は見えない。高みからはノルデンばかり見ていたので、その村がどの辺りなのか確認もしなかったけれど、今歩いていて見えないのならやはり近くにはない。


 それでも、ラザファム自身が野宿をしたくないのか、王族のアルスに野宿をさせるわけには行かないと思っているのか、とにかくまだ希望を捨てていないようだった。

 それに比べ、アルスはすっかり諦めていた。ナハティガルも起きたことだし、気分が大きくなったのかもしれない。




 なるべく急いでみたが、日が暮れるほうが早い。

 疲れたとは言わないが、ラザファムはやはり蟲と戦って疲れているのではないかと思う。一番元気なのはもちろんナハティガルだ。たっぷり休んだ上、アルスの肩に乗って移動しているから楽なものである。

 急いで歩く二人の口数が減ると、無駄にうるさく感じられた。


「ふんふふ~ん。ふ~ん、ふんふふ~ん」


 尾羽をフリフリ、鼻歌がうるさい。起きていると黙っていられないのだ。

 相手をすると疲れるので放っておいたら、飽きるまで鼻歌が続いた。


 どんどん辺りは暗くなっていく。アルスはもう、野宿に丁度よさそうな場所を見つけようと思った。


「なあ、あそこで休めそうじゃないか?」


 大きな木が枝葉を伸ばしていて、その根は盛り上がり地面を這っている。あの木の下なら、万が一雨が降ってきても凌げそうだ。


「休むって……」


 ラザファムが眉間に皺を刻んだ。


「今日は無理だ。村になんて着けないよ。諦めて休んだ方がいい」

「でも――」

「大丈夫だ。見張りならナハがする」

「あっ! 勝手に決めた!」


 ナハティガルは不承知なのかアルスの肩で足踏みをする。


「いや、お前まだ寝るつもりか? もういいだろう?」

「むー。眠たくないけど。全然眠たくないけど、皆で寝ちゃったら話し相手がいないじゃないかぁ」


 それが不満らしい。知ったことではないが。


「イービスが相手をしてくれるさ」


 適当なことを言ってやり過ごそうとしたが、ナハティガルは納得しない。


「イービスと会話が弾むと思う? 超・無口なんだから」

「お前が喋りすぎなんだろう」


 とはいえ、イービスはどこにいるのかもわからないほど静かである。

 人と同じほどには精霊にも個性があった。イービスはナハティガルの相手をするくらいなら蟲を蹴散らしている方が楽なのかもしれない。精霊の性質は好戦的ではないとされているのだが。


「まあいいや。ほら、今日は野宿だ。諦めろ」


 アルスはそう言って木のそばまで走り、木の根元に荷物を下ろした。ラザファムを振り返ると、表情は苦々しかった。


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