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Blue Bird Blazon ~アルスの旅~  作者: 五十鈴 りく
第3章 心を支えて
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13◆やっと

 ナハティガルは籠から思いきりよく飛び出し、ちょん、と地面に着地してからターンしてみせた。


「おっはよ、アルス!」


 元気いっぱいに挨拶されたが、状況を見てほしい。


「ナ、ナハ……っ」


 アルスの微妙な表情にナハティガルは一度首を傾げ、それからやっとアルス以外にくりくりの目を向けた。そして、驚きのあまり飛び上がる。


「うっぎゃぁ! ナニこれぇっ!」

「なんでもいいから、とりあえずなんとかしてくれ!」


 アルスが雑に頼んだら、ナハティガルは文句を言う暇もなかったらしく素直に従った。

 パタパタと飛んでいき、ラザファムのそばで叫んだ。


「ラザファム―! 来たよー!」

「ナハ!」


 振り向いたラザファムに蟲が襲いかかる。ナハティガルは羽から翡翠色をした風を放ち、蟲を押し戻した。切り裂かれたわけではないが、蟲にとって精霊であるナハティガルの起こした風はなんらかのダメージがあるようだった。ヘロヘロと飛んで逃げる。


「危ない危ない」


 つぶやきながらナハティガルはラザファムの肩に乗った。

 イービスは派手に立ち回り、鉤爪でつかんだ蟲を砕く。蟲は半数以下に減っていた。ただの昆虫よりも魔族には知性がある分、ここへ来て劣勢を覚ったのだろう。徐々に後退していった。


 蟲は殲滅するべきなのかもしれないが、アルスたちにそこまでの余力がない。恐れをなして魔の国まで逃げ帰ってくれたらいい。間違っても他の町村やノルデンへ行かないでほしい。


 アルスは緊張から解き放たれ、ラザファムのローブを被ったままへたり込んでいた。そこにナハティガルが戻ってくる。

 アルスの前に降り立ち、下からアルスの顔を覗き込む。


「アールス、ところでココどこ?」


 なんて言って首を傾げている。寝ていたから何も知らないのだ。

 本当に、もう起きないのではないかと思うほど寝ていた。そして、起きたらいつもと変わりない。

 その変わりない姿を見たらほっとしたのと、腹立たしいのと、いろんな感情がない交ぜになった。


 アルスはラザファムのローブが皺になるほど裾を握り締め、そしてナハティガルを睨んだ。


「……お前ってヤツは」

「うん?」

「どれだけ寝れば気が済むんだ!」


 ナハティガルが疲れたのはアルスのせいだから、本当ならそんなことを言ってはいけない。しかも口に出して言った途端、涙が堪えきれなくなった。


 クラウスに会うまでもう泣かないと決めたのに、ナハティガルに泣かされている。そんなに自分が涙もろいとは思わなかった。

 アルスの涙に、ナハティガルは右往左往した。


「な、ななな、何がっ?」

「三日半も続けて寝るヤツがあるかっ!」

「み、三日ぁ? またまた~、冗談でしょ? パウ様のところのアードラじゃあるまいし」

「冗談じゃない! いびきまで掻いて寝こけてたし!」

「ボクがいびきなんて掻くわけないでしょおがぁ!」

「掻いてた! こんなに起きなかったことなんてないし、どこか悪いんじゃないかって心配してたんだ!」


 アルスの涙がポタポタと地面に落ちるのを見て、ナハティガルは恐る恐る言った。


「……ホント?」


 アルスは勢いよくうなずき、手の甲で目を擦った。そうしたら、ナハティガルはアルスの肩に飛んできて、ラザファムのローブの中に潜り込んだ。


「そんなに寝るつもりなかったんだけど。ごめんって」


 そんなことを言いながら、アルスの頬に頭をグリグリと擦りつける。


「アルスってば実は寂しがりだからぁ」

「うるさい」

「もう大丈夫だし。絶好調。なんなら歌ってあげる」

「要らない」


 本当に、いつものナハティガルだ。大丈夫という言葉に嘘はないらしい。

 やっと涙が止まった。そうしたら、なんでこんなところで泣いているんだろうと恥ずかしくもなる。

 ローブの下からそっと覗き見ると、わりと近くにラザファムがいた。泣いていたのを見られただろうか。


「よかったですね、ナハが起きて」


 戦闘の後で疲れ果てているが、それでもラザファムがアルスを気遣ってくれたのがわかった。


「うん。ラザファムもイービスも大変だったな。ありがとう」


 アルスは頭から被っていたラザファムのローブを脱ぎ、ラザファムに返そうとした。その時、ローブのポケットから小さな銀のケースが落ちた。手の平に載るほど小さなケースは長方形で薄い。


「あっ、落ちた」


 アルスがそのケースを拾おうとすると、ラザファムはアルスの先になってケースを拾った。顔が強張っているのは疲れているからだろうか。


「悪い。傷がついたか?」

「いえ、傷なんていいんです。中身が無事なら」


 あんな薄いケースに何が入っているのだろう。精霊術師の資格、身分証明の何かだろうか。それにしても小さい。


「何が入ってるんだ?」


 訊ねてみたら、ラザファムは間をおいて、それから答えた。


「……お守りです」

「そうなんだ?」


 何か本当に大切なものが入っているらしい。きっと、見せてほしいと言っても見せてくれない気がした。


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