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14◆庭

 赤黒い、小さな蕾のような花が咲いていた。


 葉や茎の色は僅かに青みがかっているが黒に近い。尖った葉は分厚く、その裏側に小さな棘が生えているように見えた。

 花の形は粒のようで、もしかすると花ではなくて実なのだろうか。

 不思議な植物が庭に広がっている。


「……ラザファム、あの植物はなんだ?」


 後ろを振り向かないまま問いかけると、ラザファムも窓辺にやってきた。近くで息を呑む音がする。


「トラウゴット草――?」


 聞き覚えのない植物の名だが、もともとアルスは草花の名前には疎い。そういうものを愛でて大人しくしている姫ではなかったのだ。


「庭に植えるには向かないように見えるが?」


 振り返ると、ラザファムの表情が険しかった。


「もちろん向いていませんよ。違法植物ですから」

「えっ?」


 コルトの父が植えたとする違法植物がこれだとしたら、何故未だにこんなにも生えているのだ。

 セイファート教団が来て清めたのではないのか。


「もしかして、すごく繁殖力が強いのか?」

「そうかもしれません。僕がベルノルト様とここへ来た時には空から見てもこんなものは生えていなかったはずです。魔属性の植物に対する知識なんて、僕にもそれほどありませんが」

「これまで、こんなものがうちの国に生えたことはなかったんだな?」

「これほど繁殖した例は知りません。しかも、人里に」


 そこでナハティガルが震え出した。


「これのせいだよ! この草のせいでこの館は嫌な感じがするんだ。ラントエンゲに近いノルデンもきっと、こんな感じがするんだっ」


 ナハティガルがそう言い、アルスはデッセル領主たちに捕らえられた時のことを思い出した。

 彼らは、精霊王の力が弱まっているというようなことを言っていなかっただろうか。


 もしそんなことがあるのだとしたら、そのせいでここに魔属性の植物がはびこってしまったのだろうか。

 どちらだとしても、ここにこんなものが人里にあってはならないのだ。


「……ラザファム、村長はこれをどう思っているんだろう? 植えたのはコルトの父だというが、未だに残っているのは教団の不手際ということか?」


 ラザファムもこの光景に顔をしかめていた。アルスの問いかけに対する答えは持たない。


「一度は刈り取られたはずですが、種か根が残っていたと考えるべきでしょう。……今、どうしてここに生えているのかよりも、どうしてここに生えることになったのかが問題なのかもしれません。コルトの父はトラウゴット草の種をどこで手に入れたのでしょう?」


 確かにそうだ。

 罪に問うたのなら、その辺りのことも聴取はしたはずだが、アルスたちにその情報はない。何か納得のいく答えが提示されたのだとしても、それが本当だという証拠はあったのだろうか。


「とにかく、村長に訊くしかないな」


 一番事情を正確に知っているのはハインのはず。何か企んでいないといいのだが。

 ハインがなかなか戻ってこないので、アルスたちは部屋から廊下に出た。

 どの部屋でお産が行われているのか知らないが、これ以上待っているのは嫌だった。


 しかし、一枚の扉の奥から聞こえたのは赤ん坊の産声ではなく、悲嘆の叫びだった。


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