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11◆新種

 アルスが家の外へ出ると、肩に停まっているナハティガルが、ふぅむ、と偉そうにつぶやいた。


「あのさぁ、アルス。あの風呂桶のことなんだけど」

「まだこだわるのか……」


 サッと直せなかったことで余程プライドに傷が入ったとみえる。

 しかし、しつこい。しつこいと思ったのが透けて見えたせいか、ナハティガルは怒った。


「真剣に聞いてよ! あれはニンゲンの仕業じゃないよ! タブン」

「多分なのか?」

「た、タブン……」


 何故か妙に自信がないようだ。言い淀んで目が泳いだ。

 ナハティガルの感覚は大雑把だから、はっきりとは言えないのかもしれない。


「ふぅん。人間の仕業じゃないって、魔族絡みってことか?」


 それしか考えられない。しかし、ナハティガルは歯切れが悪かった。


「それがねぇ、なんか変な感じでさ。魔族っぽいんだけど、なんかちょっと違うような感じもして。新種かな?」

「なんの新種だ」


 また適当なことを言い出したので聞き流して風呂に急ぐ。




 脱衣所に、脱いだ服と一緒にナハティガルも置いてきた。じっとぬいぐるみのフリをしていることだろう。


 アルスはさっさと湯浴みを済ませ、浴場から出た。

 風呂上りはあたたかかったが、外の風が冷たいので案外すぐに冷えた。


「寒い」


 腕を摩りながらぼやくと、ナハティガルに鼻で笑われた。


「お城はあったかいもんねぇ」

「帰りたいなんて言ってない。あったかいコートでも買おうかなと思っただけだ!」

「ごうじょっぱりぃ」


 鳥と話していると変な女だと思われてしまう。アルスはナハティガルを放って歩き出した。

 ラザファムが、父に会いにノルデンへ行きたいと願うコルトに無慈悲な説教をしていないといいけれど。


 この時、速足で進むアルスに声をかけた者がいた。


「もし、そこのお嬢さん」

「ん?」


 振り返ると、そこにいたのは中年の男性だった。もちろん、知り合いではない。

 野良着の、冴えない猫背の男だ。


「コルトのところに来ている客人というのはあんたのことだね?」

「ああ、そうだ」


 すると、男は言った。


「悪いことは言わない。深入りはしない方がいい」

「どうして? コルトはただの子供だ。それも親がノルデンに送られてしまって不自由をしている気の毒な子だ。本来なら、そういう子供に手を差し伸べるのが大人の役目じゃないのか?」

「コルトは悪くないとしても、父親がしたことは罪深い」

「軽く聞いたけど、違法植物がどうとか?」

「彼はこの村を魔族に売り渡そうとしたんだ。あの植物は魔族を呼び寄せる。近頃は人でありながら魔王を崇拝する一派がいる。彼はそこに組していたって、そう聞いた」


 妙な話だ。

 アルスが知らないだけならばまだしも、ベルノルトやラザファムもそんな話は少しもしていなかった。


「わかった、じゃあ村長に詳しく聞いてみるとしよう」


 それだけ言い捨てると、アルスはコルトの家に速足で戻った。

 男性はまだ何か言いたげだったが、又聞きの又聞きらしいので、あまり信用ならなかった。


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