3 異世界での朝 (挿絵有)
翌朝。
眩しい太陽光、そして濃厚な土と木々の匂いに起こされた俺は渋々と目を覚ます。
そしてボンヤリとした目で周囲を見渡し、何度か目をこする。
しかし、何度こすろうとも周囲の状況に変化はなかった。
「・・・森? なんで? ・・・ここ・・・どこ?」
俺は確かに自室にあるベッドで眠ったはずなのだ。
しかし目覚めた時、俺とベッドは見知らぬ森の中にあった。
「え? え? どういうこと?」
俺は枕の近くに転がっていたスマホを手に取る。
しかし、無情にもスマホは通信圏外となっていた。
「え? え? え? なんで? 何が起こったの?」
俺は状況が理解できず、ベッドから降り、足の裏に感じる地面の感触に驚く。
そこには、確かに土と草の感触があった。
困惑した俺は、どうする事も出来ずに必死に叫んだ。
「お父さーん!! お母さーん!!」
しかし、俺の声に誰かが答える事もない。
森の中は葉が擦れる音しかしないのだ。
「お父さぁぁぁぁーん!! お母さぁぁぁぁーん!!」
俺は必死に叫び続けたが、一向に状況は改善しない。
突然の出来事に気が狂いそうになったが、俺は歯を食いしばって必死に堪えた。
その甲斐あってか、俺はとある事を思い出す。
そしてベッド下の引き出しを開き、お目当ての大きなリュックを引っ張り出した。
このリュックには両親が地震等の災害に備えて用意してくれた各種防災グッズが入っているのだ。
「確か・・・、この中にスニーカーが入っていたはず・・・!」
俺はリュックの中を調べ、新品のスニーカーを引っ張り出す。
すると、ご丁寧にもスニーカーの中には新品の靴下まで用意してあった。
「助かったぁぁぁ。素足でスニーカーを履かずに済んでよかったぁぁ」
そして新品の靴下とスニーカーを履いた俺は、少しだけ心に余裕が生まれる。
この余裕が吉となり、俺はベッドを離れる前に現状の把握をする事が出来たのだ。
「とりあえずリュックの中を調べて、使えそうな道具を選ぶか」
そしてゴソゴソとリュックを探ると、笛や懐中電灯、手鏡といった道具、更に水の入ったペッドボトルとチョコレート類を見つけ出した。
その瞬間、俺は喉の渇きを思い出し、少しだけ水とチョコを口にする。
この一口をきっかけに、俺の心の余裕は僅かに大きくなった。
「もう少し役に立ちそうな物はないのか?」
そしてリュックをゴソゴソと探り続け、災害時マニュアルという本を見つけた。
俺は急いで本を開き、遭難時の心構えを必死に読み続ける。
多少の余裕が出来たとはいえ、未だに脳ミソはパニック状態だ。
残念ながら文章を一読しただけでは理解できず、俺は何度も同じ文章を読み直す必要があった。
しかし、その甲斐あって俺は「この場を離れない」という決断が出来た。
そして離れない代わりに必死に笛を吹き続け、リュックに入っていた手鏡で太陽光を周囲に反射して助けを求める事にする。
俺は大きく息を吸い込み、
<ピイイイイイイイ!! ピイイイイイイイ!!>
と災害時用の笛を鳴らし、手鏡を使って周囲に太陽光を反射し続ける。
時折、水を飲んだりもしたが、何時間にも渡って俺は助けを求め続けた。
だが、何時間経とうとも状況に変化はなかった。
日が暮れ始め、今度は懐中電灯で周囲を照らしたが誰かが助けに来る気配はない。
森の中には肌寒い風が吹き始め、木々の騒めきが大きくなる。
俺は心身ともにブルブルと震え始め、涙がポロポロと流れ始めた。
次第に笛の音も小さくなり、恐怖から布団に潜り込み、夜空を見上げる。
その時、木々の間から月が見えた。
そしてその月が、俺を絶望のどん底へと叩き落したのだ。
「・・・月が・・・2つある・・・」
この瞬間、俺はここが地球ではないことを理解した。
そして必死に耐えていた心の糸が切れ、俺は布団の中で気絶してしまったのだ。