1 異世界での日常 (挿絵有)
「それじゃあケン坊。今日も魔力制御の練習しよっか?」
そういうとアダリアは両手を伸ばしてきたので、俺は普段通りに彼女の両手を握ると練習を始める。
そして練習の最中、俺は息を感じるほど近くに立つアダリアを見つめた。
輝く褐色肌に美しい黒髪、そして可愛らしい顔立ちにピンと伸びた特徴的なエルフ耳。
そう、つまり彼女はファンタジー作品で有名な種族「ダークエルフ」なのだ。
ああ、勘違いしないで欲しいのだが、この世界のダークエルフはファンタジー作品でよくある「闇落ちしたエルフ」というわけではなく、単純に肌の色が濃いだけだ。
事実、アダリアは理性的で優しいエルフであり、理由なく異世界に転移した俺が今日まで生きてこれたのは、彼女の助けがあってこそだ。
そんなアダリアは少し年上のお姉さんという外見だが、実際はエルフ基準で相当な老婆であるらしい。
だから彼女は俺の事を孫扱いするし、親しみを込めて「ケン坊」と呼んでくる。
だが、
(・・・相変わらず、可愛いなぁ~~)
未だにエルフの年齢を見分ける事が出来ない俺はアダリアの手を握りながら、そんな事をボーと考えていた。
すると、そんな俺の視線に気が付いた彼女が不思議そうに首を傾げる。
「?? どうしたのケン坊? 私の顔に何かついてる?」
「いや、そうじゃなくて。・・・アダリアって、可愛いなぁ~と思ってさ」
「っも、もう~~。
ケン坊は直ぐそういうことを言うんだからぁ~~。
お婆ちゃんをからかうなんてぇ~~、もぅ~~~」
恥ずかしそうにしながらも、ピコピコと耳を上下に動かし、アダリアは嬉しそうに微笑む。
そんな彼女の姿に、俺の口にも微笑みが移る。
それから俺たちは夕方まで人気のない森の中で魔力制御練習を続けると、住み家がある街に戻った。
そして街はずれにある小屋の扉をくぐり、
「ただいま~~」
と声をかけると、
「ケンケンおかえり~~。お夕飯もう出来てるよ。今日はケンケンの大好きな焼肉にしたからね~」
「ああ、ケン君おかえり。早速で申し訳ないんだが、新しい魔導具を作ったんだ。食後で構わないから魔力を分けてくれないかな? 動作確認がしたいんだよ」
と小屋の中から可愛らしい声が返ってくる。
その言葉に、俺とアダリアは安堵の笑みを浮かべた。
どうやら、今日も無事に一日が過ぎたらしい。
これが、俺の異世界での日常だ。