チビのアイツがタバコを手にした。
筆者はハタチじゃないですが、しっかりやってません。
お酒とタバコはハタチから!!
同級生のチビが、タバコに興味があると言って、私に千円を渡して来た。代わりに買ってきてほしいらしい。そのチビは、20になったとしても年確されそうなくらいには、なんというか幼く見える。合法ショタとかそういう話ではなく、明らかにハタチではなさそうな見た目なのだ。
まぁ、私もそのチビも、揃って19なのだが...私に至っては、がっつり吸っている。良い子はマネしないでとか、文字通り言えた口ではない。正直、バレなきゃどうってこたないって考えて吸ってるやつの方が大半だろう。まぁ、ほんとにダメなんだけど。犯罪だし。そんなことに興味があるって言うんだから、あいつも、何かあったのだろう。
そこら辺の事は詮索してやらなかった。ちょっと高い所にあるものを代わりに取ってやったとか、そのくらいの気で買ってきてやった。要望通りの、日本製の濃いめのタバコ。いきなり吸うような代物じゃない。案の定、むせかえった。最初はちょっとずつで、ふかす程度でいいのだと教え、学校で見た限りでは、その日はその1本だけを吸っていた。
久しぶりに、チビを見かけた。午後の授業を待っているらしかったので、ちょっと声をかけて、喫煙所へ向かった。
最近、学校でその姿を見ていなかったことについて聞いてみた。そいつは、何のためらいもなく、今の自分の精神状態が荒んでいること、最近考えているあれこれ、無気力でいたことを話した。その手には、あのとき買ったのと同じソフトパックのタバコ。1か月近く学校に来ていなかったが、その間も、周囲の人間に頼って買ってきてもらい、吸っていたらしい。
吸い始めたきっかけの話になった。私は、まわりの人間が吸っているからとか、そんな浅い理由から吸い始めた覚えがある。なんだかつまらない理由だ。チビは、タバコが欲しくなったから、なんてことを言っていた。
冬も、ここまで来たら最悪と言うしかないだろう。あまりにも冷え切った12月だ。
チビにタバコを買ってから、4か月は経った。
後期の作品制作の課題が、撮影というひとつの山を越え、年越し以後の発表までの編集作業が開始された。
ろくに学校に来ていなかったチビは、ギリギリ撮影には参加できていたようだったが、いつだったか、撮影時の役職についての話になったときに聞いた話では、入学以前から話していた監督の座には、挑戦すらままならなかったようだ。
この4か月の間で、随分吸えるようになったらしく、ふかす姿も様になっていた。売れないバンドマンみたいな見た目をしていると、前期のうちもよくいじられていたから、もうそれにしか見えなくなってしまった。
体つきも、随分弱々しくなったようにも見える。
大晦日に、通話アプリに入電。チビからだった。学校来るついでに買ってきてくれとか、そんなふうな電話ばかり入れられていたが、今回はどんな内容なのだろう。
「今から、一緒に吸いに行けない?」
いや、嫌だけど。確かに一人寂しい年越しだけど、カレシでもない男とこの寒い寒い大晦日にタバコ吸うためだけに外に出るの、とっても嫌だけど。
私は、私の心の声に従い、ありのままの気持ちで、そのお誘いをお断りさせていただいた。
チビは、引き下がらなかった。じゃあ、このまま、通話つないだままでいいからと、どうしても私と話したいようだった。その声色は、あんまり聞いたことないくらいには、これまた弱々しかった。
何があったのか、多分聞くべき場面なんだろうけど、聞く勇気はなかった。そこまで心配してやる必要がどこにあるとか、そんなふうに心の中で言い訳を並べて、そんな気持ちを覆い隠した。
しばらく、静かな時間が続いて、チビが話始めた。嫌なことがあったらしい。
一言に、嫌なことがあったなんて、そんなふうにまとめるには、結構重たい話だった。
自分のことが嫌になったそうだ。自分の嫌なところ、劣るところがとにかく目について、辛かったそうだ。そうした部分をずっと抱え続けていることが嫌でも気になり、またそんなことばかり考えていることも、嫌なのだそうだ。
それで、私に電話をかけてきたのだそうだ。
私以外に、頼れる人間は居なかったのだろうか。悩み相談とか、全然得意じゃないんだけど。
...
チビの話が、大体ひと段落ついた。聞いてるだけで気が滅入りそうな、そんな重たい話だった。
もう、病院行ったら?そんなことくらいしか言えなかった。
ちょっと笑いながら、彼はそうだねと、一言答えた。
電話が入ったときとは、さすがに私の気持ちは変わっていた。心配だ。
寒いが、それを理由に出ない選択をするほどの関係性ではなかった。
独り暮らしの彼の部屋は、整っているようで汚かった。必要以上に外にも出ないからぬぎっぱの服があるわけではない。食事もあまり取るっていないようなのでゴミが積み重なっているなんてこともない。ただ、ペットボトルだけは以上に積まれている。
角部屋ということもあって、窓が二つあって、ちょっとだけ開けてタバコを吸っていた。
デスクトップパソコンが動いていて、私の知らないバンドの曲を流していた。
開口一番、彼は謝って来た。突然通話をかけ、明らかに怪しい内容の誘いもした上、よくわからない愚痴をぐちぐちこぼして...
確かに、家に居ることが大体明らかなやつに対して一緒に吸わないかなんてことを言ったら、私でなければ不振すぎて恰好なイジリの的にされるような話だ。前々から、彼の精神が限界にあることは知っていたし、学校に来ていたときでさえも、なんだか余裕の無さそうな受け答えばかりをしていたので、今度もまた、変なこと言い始めたな、くらいで心にしまえた。ほんと、私で良かったよ。
一緒に吸いに行こうだなんて言うくらいなのだ、何か話したいことがあったのだろうと、今度は意を決して聞いてみた。すると、彼は部屋の収納の方を指さして
「そこにね、つっかえ棒があるんだけどさ、それを活かして首吊ろうとして、ビニールひも括りつけたの」
とか言い始めた。首を吊る?何を言っているんだ。
収納の方へ目をやる。ひらきっぱになっていて、服が沢山かけられていた。
近づいて、服の間を確認していくと、確かに、彼の首くらいなら簡単に絞められそうな、ちょっとだけ小さく括られた、それ用のひもがついていた。
目にして、単純に、怖いと思った。だから、もう笑うくらいしか反応できなかった。
それがどうしたとか、ちょっとどうでもよく思えてきたが、彼は言葉を続ける。
「それで、ちょっとだけ試したんだけど、どうしても怖くなって、それで、電話かけたの。」
良かった。彼はしっかり、怖がっていた。
私にかけた理由は、私が一番上に表示されていたからだそうだ。
死んでしまおうと言う気を、誰かとタバコを吸うことで、誤魔化したかったと、彼は話した。
私は、ちょっと嬉しくなった。そんな場面に、肝心な私である理由は適当だけれど、私を呼び出してくれたことを、ちょっと嬉しく思った。
彼もまた、一番上に私が表示されて良かったと、そう語る。初めてタバコを教えてくれた人だし、なんだかドラマチックだし、と。
寝ようと思ってベッドに入って、ふっとタバコを吸っている自分について妄想したら、いつの間にかこんな文章になっていました。一応私小説です。タバコ吸ってるとこ以外、チビの状況はそのまま私が体験したことです。なんだか大変な思いしたね。どっかで消化しておきたかったので、ここでちょろっと作品として記せたのは、ちょっと清々しいかも。
みんなは健康的な生活を送ろうね。じゃあね。