第三話 攻撃隊
―――午前五時半過ぎ―――
バババババババッ!!
飛龍の飛行甲板にいた零戦、九九式艦爆、九七式艦攻らが一斉にプロペラを回り始める。
艦橋下山口を囲むようにに搭乗員達が集結している。
「諸君ッ!!いよいよ我等飛龍航空隊の反撃の時が来たッ!!攻撃の手順は先程言ったようにしてくれッ!!皆の武運を祈るッ!!」
「山口司令官に敬礼ッ!!」
攻撃隊総隊長の村田重治少佐の怒鳴り声とともに搭乗員達が山口に敬礼をする。
そして搭乗員達は己の機体に向かって走り出した。
そして、発着艦指揮所から青い旗が振られた。
『発艦セヨ』の合図だ。
零戦の一番機は制空隊隊長の東雲蒼士だ。
飛龍も防空指揮所で東雲を見守っている。
ブオォォォーーンッ!!
東雲機が発艦する。
周りにいる対空火器員達は惜別の意味である『帽振れ』をしている。
攻撃隊は飛龍から零戦二十六機、九九式艦爆二十二機、九七式艦攻十九機、瑞鳳から九七式艦攻十二機の計七十九機が敵機動部隊に向かい、上空警戒機は瑞鳳に搭載している旧式の九六式艦戦十二機である。
長良艦橋にいた南雲はそれを見届けると襲撃部隊の速度を上げさせた。
―――襲撃部隊―――
戦艦比叡、榛名。
重巡洋艦利根、筑摩。
軽巡洋艦長良、神通。
駆逐艦親潮、黒潮、雪風、時津風、天津風、不知火、霞、陽炎、霰、秋雲、夕雲、巻雲、風雲、谷風、浦風、浜風、磯風。
が参加し、空母の護衛に残ったのは第四駆逐隊の萩風、舞風、野分、嵐の四隻である。
「…蒼士…。死ぬなよ…」
既に豆粒くらいになった攻撃隊を飛龍が見送る。
敵米機動部隊は第一機動部隊よりやや北方の三百キロの海域にいた。(米機動部隊が第一機動部隊に接近しているからである)
―――空母エンタープライズ―――
「スプルーアンス司令官。攻撃隊の発進時刻は午前七時過ぎです」
「うむ、出来るだけ早く準備を急がせろ。何としてでも空母ヒリュウを沈めるのだッ!!」
米機動部隊は戦闘機四十、艦爆三十八、艦攻十二機の九十機を飛龍に向かわせようとしていた。
その頃、エンタープライズの防空指揮所で艦魂であるエンタープライズは海を眺めていた。
「……嫌な予感がするな」
男勝りでショートヘアのエンタープライズは軽巡や駆逐艦の艦魂達から絶大な人気を得ている。
「お姉ちゃん。嫌な予感って?」
そこへ、ツインテールの少女とポニーテールの少女が来た。
「ヨーク姉。ホーネット」
「……やはりジャップは来ると思う……」
頭に包帯を巻いているポニーテールのヨークタウンがボソッと言う。
「あぁ。多分な…」
「私は…日本と戦うのは嫌だな…」
ポツリとホーネットが言葉を漏らす。
「私達のアメリカは歴史は浅いけど、日本は約二千年の歴史もあるし武士道だってあるし……」
ホーネットは親日派なのだ。
「ホーネットの親日も聞き慣れたけどな。けど忘れるなよ?俺達は今そのジャップと戦っているんだ」
「うん。それは分かっているよ…」
シュンとホーネットがしょげる。
そこからは何となく気まずい雰囲気になった防空指揮所は各々解散となる。
―――午前六時半過ぎ―――
ピコーンッ!!ピコーンッ!!
「うん?」
エンタープライズのレーダー員が反応する。
レーダーが南方から点滅して接近してくる編隊を見つけたのだ。
「敵機来襲ですッ!!」
報告はすぐさまスプルーアンスに伝えられた。
「先手を打たれたかッ!!迎撃隊を発進させろッ!!それと攻撃隊を発進させろッ!!」
「しかし、司令官。まだ準備ができていませんッ!!」
「できてる機を発進させるんだッ!!」
エンタープライズの艦橋が俄かに騒ぎ始める。
迎撃隊としてF4Fが二十機飛び立ち、攻撃隊としてF4Fが十八、ドーントレス二十機が発進する。
発進した直後に村田重治少佐以下の攻撃隊が米機動部隊に襲い掛かった。
―――東雲蒼士機―――
「進藤の六機は敵攻撃隊に向かうんやッ!!残りは敵の迎撃隊に向かえッ!!」
蒼士は進藤三郎大尉にジェスチャーを送り、進藤は頷き、五機の列機を率いて攻撃に向かう。
「行くでッ!!」
蒼士は速度を最大の五百三十三キロに上げて敵迎撃隊の中に突入した。
―――村田重治少佐機―――
「艦攻隊は敵護衛艦艇を狙えッ!!江草ッ!!空母は任したぞッ!!」
村田は操縦席から江草機に向かって手を振る。
江草は頷き、高度をさらに上げる。
村田も列機を率いて高度を下げる。
ドンドンドンドンッ!!
ダダダダダダダダッ!!
空母を取り巻く護衛艦艇から対空砲火が放たれているが、村田はひょいひょいとかわす。
「三機一個小隊に分かれて攻撃だッ!!」
平山一飛曹が列機に打電する。
一機余るが仕方ない。
村田の小隊だけ四機となる。
「敵艦との距離千八百……千六百……千四百……千二百……千……」
星野が距離を測定し、千メートルになった時、村田は投下索を引いた。
「赤城の仇だッ!!撃ェェェーーーッ!!」
ヒュウゥゥ…ザブンッ!!
反動を利用し、上昇している時に、三番機がやられた。
グワアァァーーンッ!!
だが、三番機の想いが託された魚雷は駆逐艦に向かう。
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズシュウゥゥーーンッ!!
魚雷が命中した駆逐艦は瞬く間に沈没する。
魚雷を回避するため一時対空砲火が下火になるのを艦爆隊隊長の江草隆繁は見逃さなかった。
「突撃ッ!!」
キイィィーーンッ!!
二十二機の艦爆は三隻の空母に急降下を敢行する。
「撃ェェェーーーッ!!」
ヒュウゥゥーーッ!!
ズガアァァーーンッ!!
ズガアァァーーンッ!!
三隻の空母は次々と炎上する。
奇しくも赤城達のように……。
格納庫にまだ爆弾や魚雷が転がっていたので誘爆を始める。
「スプルーアンス司令官ッ!!三空母とも飛行甲板被弾のため発着艦不能ッ!!」
ブローニング参謀長がスプルーアンスに報告する。
「艦艇の被害は?」
「重巡一、軽巡一が大破航行不能です。駆逐艦四隻、重巡一隻が沈没です」
「ほぼ艦艇の半数がやられたか……」
スプルーアンスぎりぎりと拳を握りしめる。
「ジャップ攻撃に向かった攻撃隊は?」
「ジーク六機に攻撃されるもワイルドキャット十三機、ドーントレス十四機が向かっています」
ブローニングが報告する。
「分かった。奴らでゲームを終わらせてはならんッ!!」
スプルーアンスの怒号がエンタープライズの艦橋に響いた。
―――空母飛龍―――
「山口司令ッ!!攻撃隊より入電ッ!!『敵空母三炎上ス。敵護衛艦艇半数ヲ撃沈破ス』ですッ!!」
飛龍の艦橋が歓声に変わった。
そこへ、新たな通信兵が来た。
「村田少佐より入電ッ!!敵攻撃隊が我が飛龍に向かっているとのことですッ!!数は戦闘機十三機、艦爆十四機です」
山口は頷く。
「よし、迎撃準備だッ!!」
山口の一言で飛龍の艦橋はざわつき出す。
「伊藤、村田に打電だ。零戦を何機か急いで帰らせるんだ」
「分かりました」
やはり九六式艦戦では苦戦するだろう。
村田から、零戦十八機を向かわすと返電が来た。
―――午前八時半過ぎ―――
「零式水偵より入電ッ!!敵攻撃隊接近ッ!!」
山口は即座に命令を下す。
「瑞鳳に下命ッ!!迎撃隊全機発艦ッ!!」
そして瑞鳳から九六式艦戦が発艦していく。
九六式艦戦の迎撃隊隊長の三沢大尉は奇襲を考えた。
「急降下でやるか」
敵機はまだ来てない。
九六式艦戦十二機は急いで奇襲するべく上昇する。
そして充分高度を確保した時、三沢は敵攻撃隊を見つけた。
「行くぞッ!!」
三沢はバンクして急降下を開始する。
列機も同様である。
タタタタタタタタッ!!
軽快な音を立てて、七.七ミリ機銃弾がドーントレスの左主翼付け根に吸い込まれた。
ボゥッ……グワアァァーーンッ!!
九六式艦戦の奇襲で米攻撃隊が乱れた。
初撃でドーントレス四機、ワイルドキャット二機を撃ち落とした。
「敵戦闘機は追うなッ!!敵艦爆を撃ち落とすんだッ!!」
三沢がノイズが走る無線に怒鳴る。
聞こえないが何故か言っておきたかった。
九六式艦戦十二機はワイルドキャットに阻まれながらもドーントレス落とそうとするが爆撃地点に来たのか、残りの十機が一斉に急降下に移った。
「しまったッ!!」
三沢は操縦席で舌打ちをした。
―――空母飛龍―――
「敵ィィィ急降下ァァァ直上ォォォーーーッ!!」
見張り員の絶叫が飛龍を襲う。
「取り舵一杯ッ!!」
飛龍艦長の加来止男大佐が回避命令を出す。
ググウゥッと飛龍の艦体が傾く。
「落ちろォォォーーーッ!!!」
防空指揮所で飛龍が刀を振るう。
三機を落としたが二機が爆弾を投下した。
ヒュウゥゥーーーッ!!
「ーーーッ!!!」
飛龍は目をつむる。
ズシュウゥゥーーンッ!!
ズガアァァーーンッ!!
「ゴフゥゥッ!!」
飛龍は口から吐血した。
飛龍の被害はそれだけだ。
命中した箇所が飛行甲板の外れのほうであっためだ。
だが、瑞鳳はそうではない。
三発は避けたが、二発が命中したのだ。
「ウウゥ……」
肩から、腹からも血を流し、防空指揮所の床に横たわった。
そこへ、飛龍が転移してきた。
「瑞鳳ッ!!しっかりしろッ!!」
「…て…てき…は…?」
「大丈夫だ。引き揚げたみたいだ」
「そう…です……か」
ガクリと瑞鳳は気絶した。
―――飛龍艦橋―――
「瑞鳳より連絡。飛行甲板発着艦不能です」
通信兵が山口に報告する。
「やむを得えんな。零戦は間に合わなかったがなんとか守れたな。九六式艦戦を飛龍で収容するが飛行甲板は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。爆弾が飛行甲板の外れのほうに命中したのが幸いでした」
「ならいい。九六式艦戦を収容しろ」
山口の命令で、九六式艦戦は次々と着艦を始めた。
―――空母エンタープライズ―――
「ヨークタウンの状況はどうだ?」
「後、三十分もすれば鎮火するとのことです」
スプルーアンスの問いにブローニング参謀長が答える。
ヨークタウンは珊瑚海海戦の損傷のせいで海戦前はボロボロだった。
そこへ、急降下爆撃を受けてさらに傷口が拡がったのだ。
「…もう昼か…」
既に時刻は、一時頃であるがまだ戦闘食を食べていない。
スプルーアンスは副官に命じて戦闘食を持って来させた。
今日の戦闘配食はサンドイッチとコーヒーのようだ。
喉の渇きを潤すためにコーヒーを飲もうとした時、通信兵が艦橋に駆け込んできた。
「大変ですッ!!前方の駆逐艦より入電ッ!!敵艦隊ですッ!!」
「何ィィィーーーッ!!」
バシャッとコーヒーが零れた。
「アッツゥゥッ!!数はッ!!」
スプルーアンスが熱さに堪えながら問う。
「戦艦らしき艦二隻を含む大艦隊ですッ!!距離約八十キロッ!!」
エンタープライズの艦橋は騒然となった。
―――戦艦榛名―――
「敵機動部隊視認ッ!!」
見張り員から報告させる。
「全艦突撃だァァァーーーッ!!!」
戦艦榛名の艦橋で南雲忠一中将が吠えた。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m