対象者の席順の必然性
「ある富豪がこう言ったとする。仕込み役者ばかりじゃつまらない。俺はシナリオ演技ではなく、素人のリアルバトルが見たいんだ。またある富豪が言う。わしは格闘技のタイトルマッチの会見のような喧嘩が見たい。ある程度ヤラセでも構わない。さらに別の富豪が言う。私は絵面の美しさを重視するわ。デスゲームは芸術的でなくちゃね。それらの要望を全部満足させるために、運営スタッフは頭を悩ませる。まず、仕込み役者ばかりだとつまらないから素人を入れろという要望に応えるため、対象者の過半数に素人の一般人である、近藤さん、純君を入れる。半田さんもかな? 次に、喧嘩が見たいという要望に応じ、今市さんと半田さんを隣に配置し、喧嘩するよう仕向ける。それに加え、このデスゲームの肝は童貞に控室でセックスさせることだから、役者と素人は中断中別の控室に入れなければならない。これらの条件を満たす席の並びは、左から順に、黒咲さん、今市さん、半田さん、純君と近藤さん、ということになる。しかしここで新たな問題が生じる。美しい絵にならないのだ。中央の席にはいかついヤンキーではなく、童顔の高校生を置いたほうが、絵面がよい。今市さんと半田さんは隣接していないと喧嘩にならないので、純君の右側に配置を入れ替える。そしたら今度は左の控室に入るのが黒咲さん一人だけになってしまった。そんな状況ではいくら解答者が鈍くても、さすがにこれは控室で何かありそうだなと気づく。だからシナリオを書き直し、今市さんが左の控室へ入る正当な理由を作った。となると」
俺は首をひねった。
「近藤さんは左端の席ではなく、左から二番目の席でも良いような気もする。黒咲さんを左端に置いて。その方が右の控室へ入るとき移動距離が少なくて済む。しかし近藤さんは左端だ。これはなぜだろう?」
《まあ、細かいことは気にするな。このデスゲームに富豪達の異なる要望が反映されているのは、お前の推測通りだ。見事だな》
福助は言った。
《対象者の配席については、企画会議でも意見が分かれたところだ。確かに、近藤は左から二番目の席でもよかった。近藤を左端に置いたのは、あえて右の控室へ大移動させ、解答者が気づくかどうか、気付いたとしてそれをどう処理するか試してみたかったからだ。思わぬアクシデントが発生するかもしれないしな。こればかりは実際にやってみないとわからない。デスゲームの醍醐味ともいえるだろう。デスゲームは生き物だからな》
そう言って福助は笑った。
そんな理由でゲームがコントロールされていたとは。命をかける身としてはたまったもんじゃない。
「じゃあ半田さんは素人の一般人ということでいいのか?」
《正確には半田は半仕込みの素人だ》
「半仕込み、とは?」
俺は尋ねた。
《半仕込みというのはテレビ番組制作でよく使われる手法のことを指す。素人をテレビに出す際、完全な台本通りに動かすのではなく、こういう風に動いてくれるとありがたいです、こういうことを言ってくれると盛り上がります、などと事前に伝えておく。そうすることで、出演者の素人さんが自発的に制作スタッフの意図を汲んだ言動をしてくれることを期待する。と、まあ大体そういう手法だ。だから、残り時間十五分を過ぎて半田がカミングアウトした内容が真実だ》
「成る程」
だから半田は、ゲーム開始時は勢いがあったが、時間の経過とともにトーンダウンしていったというわけか。
《他に知りたいことはあるか?》
「運営がシェイプシフターに指示を与える手段について」
《ああ、そのことか》
福助は言った。
《今市の眼鏡はスマートグラスだ》
「待て」
俺はゲーム中の今市の眼鏡を思い浮かべた。
「現代の技術では、スマートグラスに文字を表示させたら、こちら側にも見えてしまうはずだろ」
今市の眼鏡に何かが表示されたことはなかった。
《私とタイマーはお前の左側に置いてある。お前がこちらに視線を移したとき、右端の席にいる今市のスマートグラスに指示を表示させる。単純な話だろ(図1)》
そういうことか。




