童貞の告白①
黒咲は、観念したかのように話し出した。
「実は、僕は劇団員なんです。子供の頃から映画俳優に憧れ、将来は絶対に役者として成功したいと思っていました。ちなみに顔は整形などではなく、元々のものですが、中学までは全くモテなかったというのは本当です。高校生になり、僕はますます役者の道にのめり込んでいきました。劇団に所属し、専門的なレッスンも受け、経験を積みました。その過程で、この業界はライバルが多く、成功するためには素質や努力だけではどうにもならない。運やコネクションが必要だということもわかってきました。運は別として、親のコネなど当然僕は持っていません。生半可な気持ちで挑んでは鳴かず飛ばずで終わるだろう。そう痛感しました。そこで僕は、大俳優になるために自分に対して厳しい誓約を課すことにしました。それは、大手芸能事務所のオーディションに合格するまでは女性とセックスをしないという誓約でした。そうやって自分を律することで、夢に近づけると考えたからです。しかし困ったことに、好意を寄せてくれる女性はたくさんいました。お付き合いをし、キスまではいきました。しかし、僕はどうしても俳優になりたかったので、誓約を守るために頑なに童貞を維持し続けました。童貞喪失寸前のところまでいったこともありました。その時は心を鬼にして、下着姿で迫る女を突き飛ばして逃げました」
やっぱりイケメンの考えることは理解不能だ。
「すみません、黒咲さん。あなたは女性が好きではないのですか? 性的な興味はなかったんですか?」
俺は聞いてみた。
「いえ、逆です。僕は女性が大好きです」
「ではなぜ?」
「興味があるからこそです」
「どういう意味ですか?」
「好きなものを断ってこそ、誓約は効果を発揮するのです。例えば、受験生が志望校合格まではケーキを食べない、とか、高校球児が最後の甲子園予選が終るまでは彼女を作らない、とかそういう誓約を自分に課したとします。そのとき、受験生は好きな食べ物を断たないと意味がないんです。ピーマンを断ってもだめなんです。高校球児の場合は、作ろうと思えばいつでも彼女ができる状況の選手が言わなければ、意味がないんです。なぜなら、モテない高校球児がそういう誓約を設けても、その選手は誓約をしようがしまいがどっちみち彼女はできないのですから。あえて断ってこその誓約なんです。わかりますよね。平木さん」
「わからないけど先を続けてください」
「はい」
黒咲は素直に頷いた。
「僕は高校を卒業し、バイトをしながら劇団員を続けていました。そして、役者を志す者なら誰もが一度は通る道ですが、自分が劇団を主宰し、脚本を書き、監督になるのが成功への近道だと思うようになりました。そして二十歳のとき、実際に劇団を立ち上げました。しかし、劇団を運営するにはお金が要ります。舞台のチケット代だけで賄えないのは当然ですが、バイト代や公的な助成金による補填でも足りず、借金をするようになりました。それほど僕はこの仕事に人生を賭けているのです。ですが、小劇団のような信頼のない組織が簡単に金を借りられるほど、世の中は甘くありません。僕はついに闇の金に手を出してしまったのです。その金が三百万程になったとき、一発でチャラにする方法を持ちかけられました。それがこのデスゲームに参加することでした」
黒咲は一度ここで言葉を切った。
軽薄なホストのベールは消え去った。夢に向かって一途に突き進む好青年の姿がそこにあった。




