「あなたが童貞です」
「そうです、あの、空き缶を蹴飛ばして泣きながら帰った、二カ月前の初体験の日のことです。あなたがたは知らないでしょうが。あの日、テレクラで知り合った相手と合意した金額は二万円でした。でも俺は、爪が伸びているのが気になって、ATMから現金を引き出すのを忘れてしまったんです。手持ちのお金が少ないままホテルに入ってしまった結果、相手の女性に土下座することになりました。それくらい初体験というものは、気もそぞろで、正常な思考が働かない状態なのです。情けないことですが、少なくとも俺の場合はそうでした。これを踏まえて今市さんの行動を振り返ります。自己紹介で半田さんにからむ。解答者にお前は童貞かと聞く。号泣しながら僕が童貞ですと名乗り出る。そんな大立ち回りの合間の十分間に、初体験を済ませるミッションに挑むというのは、いくらプロの役者といっても精神的負担が大きすぎます。そのゲームシナリオには無理があるんです。よって童貞は、左の控室へ入った二人の内で、立ち回りの少ない人物。そうです」
俺は一人の男を示した。
「あなたが童貞です。黒咲さん」
名指しされた黒咲は、宝石のような瞳で俺を見ていた。
一瞬背筋がぞくりとした。
気圧されるように、俺はパイプ椅子に座った。
「俺の推理は以上だ。福助、正解を言え」
《わかった》
福助はそう返答した。
《では発表するとしよう。まず、お前が記入して提出したゲームの解答についてだ。童貞はいない、と書いたな》
俺はごくりと唾をのみ込んだ。
《正解だ!》
福助人形の口からその言葉が発せられた。
心の底から安堵する。
紙吹雪もファンファーレも無いが、ともかく命がつながった。まだ生きていられる。そのことが俺の胸に染みた。
《そしてこれは本来のゲームの解答とは関係ないが、童貞改め、元童貞は誰なのかについて。平木が名指したのは黒咲騎士》
やや勿体付けて、福助は言った。
《これも正解だ。推理についても大方お前の言った通りだ》
福助の声に答えを当てられてしまった悔しさのようなものが滲んでいる。
《黒咲、話してやれ》
「はい」
黒咲は深呼吸をした。
「そうです。僕が童貞です」
黒咲は言った。
そして彼は観念したかのように話し出した。




