平木の推理⑩
俺は論述に戻ることにした。
「この、控室に関する推理は、両サイドの控室が四角形の部屋という前提で成り立っていますから、左の控室もそういうものとして話を進めます。そして、中断中左の控室にいた二人の組み合わせですが、これは童貞とシェイプシフターというパターン以外はあり得ません。童貞と素人の一般人という組み合わせでは、先ほども述べたように、素人の一般人の目の前でセックスを行わなければならず、後半に解答者に告げ口をしてしまうかもしれないからです。だから、黒咲さんと今市さんは童貞非童貞に関わらず、どちらも運営側に仕込まれた役者であることは、間違いないんです」
名指しされた二人は、特に否定することもなく黙っている。
「では、どちらが童貞で、どちらが非童貞なのでしょうか?」
重要なのはそこである。
「この問いについて考えるとき、まず、シェイプシフターは運営にとってどういう存在なのかということに着目します。童貞が見破れらないようアシストする。ゲームの局面に応じて、解答者が変な方向に行かないよう軌道修正したり、場を盛り上げたりしてコントロールする。童貞がセックスに成功した場合、解答者に働きかけ、解答用紙に誰か一人の名前を書かせようとする。おそらくシェイプシフターの仕事はこんなところでしょうか。つまり、刻々と変化するゲームの局面に応じた行動が求められるんです」
俺は一度、今市を見た。
「ということは、シェイプシフターは運営からリアルタイムで指示を受けていると推測できます。そこで俺は、最初はイヤホンを疑いました。しかし、今市さんはイヤホンを付けていませんでした。聴覚ではないとすると触覚だと思いました。例えば、バイブレーターのようなものをポケットに隠しておいて、モールス信号のように運営の意図を伝えるとか。ですがこれも難しいと思います。モールス信号では文章を伝えるのに時間がかかりすぎるし、誰も話していないときゲーム室は結構静かになります。振動音が聞こえてしまうかもしれません。となると、あとは視覚です。眼鏡に特殊な反射システムを仕込んでおき、マジックミラーの内側を見られるようにしておく、とか。でもそんなシステムは技術的に難しいかもしれないと思いました。今市さんと近藤さんは眼鏡をかけていますが、レンズは無色透明です。例えば、特殊な加工をして余分な光をカットするレンズとして偏光サングラスがありますが、透明な偏光サングラスというものは存在しませんし。それに、このゲーム室のマジックミラーは高性能で簡単には中が見えないようになっています。だとすると、パイプ椅子に微弱な電流を発する装置を仕込んでおき、素人の一般人が下を向いた隙に、運営の電流合図と同時にマジックミラーの端にシェイプシフターの肉眼で見えるよう、文字を瞬間的に表示するとか。結局俺には、運営がシェイプシフターに連絡する方法はわかりませんでした。ただ、シェイプシフターは頭をかいたり、腕を組んだりすることで、サインを受け取ったという合図を送ることは簡単です。野球選手のように。とにかく、そういう事をやりやすいのは右端にいる今市さんです。それに今市さんは、いかにも童貞というキャラクターを演じているので、童貞特有の挙動不審な動きをしたり、目線をきょろきょろさせても怪しまれることはありません」
これを聞いても今市に変化は見られない。
「ですがこの、『シェイプシフターは運営からリアルタイムで指示を受けている』という発想自体が俺の推測でしかなく、シェイプシフターは自己判断で臨機応変に動いていた可能性もあります。ただ、これだけは言えます。確実に、シェイプシフターは存在する。なぜなら、中断中控室にいるとき、目の前でセックスが行われていたというのに、素知らぬ顔をして後半ゲーム室にいるわけですから。これは仕込み役者以外の何ものでもありません。もうはっきり言ってしまいますが、シェイプシフターは今市さんと考えらえます。思えば今市さんの行動はゲーム序盤からおかしかった。半田さんは今市さんの胸倉を掴みましたが、それは、半田さんのレイプ話を聞いた今市さんが『くずが』と呟いたからです。発端はあくまでも今市さんの方なのです。確かに俺もレイプの話を聞いて、半田さんのことを最低のくず野郎だと思いました。でも口には出しませんでした。しかし今市さんは、口に出して言ったのです。今市さんと半田さんの体格は一回り違います。しかもタトゥーをしている初対面の男にそんなこと言えるでしょうか? それに、俺に対して『お前は童貞なのか?』とゲームと関係ないことを聞いたり、終盤、突然、『童貞は僕です』と言って泣き出したりと、まあ大活躍です。これは、ゲームを盛り上げるために仕組まれたシナリオのセリフ以外に考えられません。今市さんはシェイプシフターに間違いありません。ですが――」




