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平木の推理⑤

「しかし、それなら福助のあの発言はどうなりますか?」


 そう聞いたのは、またしても近藤だった。

 あの発言、が何を示すのか俺にはすぐにわかった。

「確か後半、福助は、対象者は控室で『休憩していただけ』と言っていたと思いますが」

 近藤の指摘は当を得ていた。


 俺は大きく頷いた。


「近藤さんのおっしゃる通りです。福助のその一言は、最後の最後まで俺を苦しめることになりました」


 福助は嘘をつかない。

 対象者が控室で休憩していただけなら、セックスは行われていない。だから、童貞は非童貞になることはできない。

 福助の言葉を真面目に解釈するとそういうことになる。


「確かに、福助は嘘をつきません。しかし福助は、都合の悪いことは答えなかったり、曖昧な表現でかわしたりすることはあるのです。アンフェアぎりぎりのミスディレクションは使うのです。休憩、という言葉もそうです。休憩という単語は、文字通りゆっくり休んでリラックスするという意味以外に、別の用途もあるのです。ララブホテルの入り口に表示してある、あれです。休憩三千五百円、宿泊六千円などと書いてある『休憩』のことです。例えば、カップルがデート中、良い雰囲気になり、男が女に、ちょっとラブホテルで休憩して行こうよ、と誘ったとします。女は同意し、二人でホテルに入ったとします。そこで、男はセックスをしようとします。そうなったとき、『ちょっと話が違うわ。休憩するだけって言ったじゃない!』と怒る女はいません。それは、休憩がセックスすることを意味することが暗黙の了解として男女で共有されているからです。だから福助の『全員休憩していただけだ』という言葉は、休憩していた対象者もいたし、セックスしていた対象者もいた、と解釈することができるのです。いや、そうとしか考えられないのです。本当にタイムリミット間近まで悩みましたが」


 近藤は半信半疑の表情で頷いた。


 俺はさらに続けた。


「さて、中断中控室でセックスが行われたと仮定して話を進めます。問題は、童貞は果たしてセックスに成功したのかという点でした。というのも、このゲームにおける童貞の定義はかなり厳しく規定されており、その要件を満たさなければ童貞を卒業したとは認められないからです。定義については福助に確認済みです。もし休憩中に童貞がセックスに成功しなければ、後半に入っても、対象者の中に童貞が一人存在してしまうことになります。その場合、解答者の俺が何も考えずに、当てずっぽうで一人の名前を書いたとしても、五分の一の確率で正解してしまいます。そういう、ただのつまらないギャンブルと化すのです。その状況は、観客にとって最も興冷めと思われます。だから童貞は、緊張状態で、勃起、挿入、射精までをわずか十分で終わらせるという過酷なミッションを、是が非でもクリアしなければならなかったのです。しかもそれが、彼にとっては記念すべき初体験なのです。自分の初体験のことを思い返し、いかにこのチャレンジが大変か想像できます。挿入前に射精してしまったり、緊張でうまく立たなかったり。初体験というのは、往々にしてうまくいかないものだからです。情けない話ですが、俺も初体験のときは、たった三分でイってしまいました。それくらい初体験というのは、うまくいかないのが当たり前なんです。それで、童貞がセックスに成功したかどうかという話に戻りますが、俺は成功したと判断しました。そう判断した理由は、福助が終了間際に非童貞を一人教えてくれたことです。もし後半に対象者の中に童貞が存在しなくなった場合、出題者は解答者に対象者の名前を書かせようとするはずですから、選択肢を減らしてお得感を出そうとすると考えました。逆に、童貞がセックスを成し遂げられず後半も童貞のままだったら、選択肢を五択のままに据え置き、少しでも正解確率を下げようとするはずです。俺が出題者ならそうします。しかし正直言って、福助から小野寺純君が非童貞と教えられても、まだ童貞がセックスに成功したという確信は持てませんでした。本当に覚悟が決まったのは、福助が二人目の非童貞の存在を教えることを示唆したときでした。三分の一はさすがにやりすぎです。それに、福助の言葉遣いにも違和感がありました。『非童貞を教えてやろうか』とは言っても、『選択肢を減らしてやろうか』などとは絶対に言わなかったからです。『選択肢を減らす』では、選択肢の中に答えが必ず存在しなければうそをついたことになるからです。このあたりの読み合いで、俺は福助との駆け引きに勝ったと思っています」


《成る程。だから解答用紙にこう書いたのか》

 福助が言った。


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