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平木の推理③

「解答用紙を手にしたときでした。俺は、忘れていた問題文の一部分を土壇場で思い出したのです。福助は確かにこう言ったんです。《見事童貞の存在を見抜くことができたら君の勝ち》と。俺はこのゲームの解答について、一人の童貞の名前を指名するものと思い込んでいました。しかし、必ずしもそうとは限らないと気づいたんです。あくまでも、『童貞の存在を見抜く』ゲームなんです。だから、童貞は存在しない、という解答もあり得るのです」

「ちょっと待ってくれ、平木さん」

 口を挟んだのは近藤だった。

「何でしょう?」

「福助は嘘をつかないんですよね? 福助は、私たち五人の対象者の中に童貞が一人いると言っていましたが」

 近藤は困惑した表情で言った。

「はい。確かに福助は、対象者の中に童貞が一人いると明言しました。でも思い返してみてください。福助がそう言ったのは前半だけで、中断後の後半は、一度もこの中に童貞がいるとは言っていないのです。さらに、前後半を通じて、『答えを記入しろ』と言うことはありましたが、『童貞だと思う対象者の名前を記入しろ』とは一度も言っていないのです。①前半福助が対象者の中に童貞が一人いると明言する②十分間の中断中対象者は控室に入る。③後半福助は対象者の中に童貞がいるとは一言も言っていないし、解答用紙に誰かの名前を書けとも言っていない。これらの事実から導き出せることは、一つしか考えられません」


 俺はここで一呼吸置いた。


「そうです。対象者の中に、中断中の十分間に、控室で童貞を卒業したやつがいるということです」


 俺はぐるりとゲーム室を見回した。


「つまり、後半になると対象者の中に童貞はいなくなっているので、解答用紙に誰か一人の名前を書いた時点で、俺は敗北ということになってしまうのです」

 俺は言った。

「まず、あいまいな文章表現の問題文を一度だけ解答者に聞かせる。嘘をつかない福助が、前半に一人の童貞の存在を明言する。中断時間で童貞を非童貞に変える。後半、福助は童貞がこの中にいるとは一言も言わず、誰か一人の名前を書くよう誘導する。これが、運営側が解答者の俺に仕掛けたトリックでした。考えてみれば単純ですが、最後の最後までわかりませんでした。気付けなかった理由はいくつかあります。第一に、問題文で、解答者は司会者となり対象者と会話するよう促しているから、会話をすれば童貞を探し出せるかのように錯覚すること。二つ目に、福助がたまにヒントをくれるので、思考が前進したような気分になってしまうこと。第三に、童貞というセンシティブなテーマを扱っているので、つい対象者の話に感情移入したり、自分の体験と比較して雑念が入ったりすること。第四に、終盤で福助が非童貞を一人教えてくれたので、選択肢が絞られたように感じること。そういった理由から、血眼になって対象者の中から童貞を探そうとしてしまうのも、解答者としては無理なからぬことでしょう。実はこのゲーム、問題文を何度も読み返せるだけで、かなりイージーなゲームとなることは間違いありません」


 問題文の聞き逃しには本当に悩まされた。


 あの状況で落ち着いて聞ける人などいるわけがない。


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