平木の推理①
解決編
解答受付時間は過ぎ去った。
もう後戻りはできない。今更じたばたしたところでどうにもならない。
俺はパイプ椅子に深く座り直した。
対象者達は、一様に不安げな面持ちで俺を見ている。
福助に内蔵された読み取り機が、俺の記入した解答の文字をスキャンしているはずだ。すでに、運営スタッフやマジックミラーの向こうの富豪達には、その記入内容が伝わっていることだろう。
「すみません」
小野寺が挙手した。
「ちょっと体調が悪くなってしまったので、退出してもいいですか?」
彼は怖々言った。
《いいだろう。ゲームは終わった》
福助は許可した。
小野寺は立ち上がり、右の扉から出て行った。
他の対象者に別段変わった動きは見られない。
《さて、平木直太。解答は見せてもらった。これは一体どういうつもりだ? 自分が何を書いたか理解しているのか?》
福助が言った。
「ああ。もちろん理解している」
《説明してもらおうか。この解答に至った推理の過程を》
「わかった。では順を追って説明しましょう」
俺は立ち上がった。
「まず最初に、目隠しをされてこのゲーム室に連行された俺は、どんなデスゲームをさせられるのかわからない状態でした。目隠しを外され、ペンとメモ帳しかない中、いきなり福助により問題文が読み上げられました」
そのことが遠い過去のように感じられる。
「五人の中に一人童貞がいる。制限時間内に見つけられなければお前は死ぬ(死に準ずる程の過酷な強制労働が待っている)。問題文は大体そういう内容でした。なぜ童貞を探させるのか? 全く意味がわからないまま、タイマーが動き出したので、とにかくこの不可解なゲームに集中するしかありませんでした。そして、両サイドの扉から対象者が出てきました」
俺は福助の周りをゆっくり歩きながら、思い出すように語った。
心拍数も落ち着きを取り戻してきた。
「五人の対象者から性体験を聞き取り調査し、嘘をついている対象者の矛盾点を理論的に指摘することで童貞をあぶり出す。もしくは、非童貞と判断できる四人を見抜く。俺はこのゲームの攻略法をそう考えました。福助が、君は司会者となって対象者と会話したり質問したりすることができる、と言ったことがそういう攻略法が有効と考えた主な理由です。が、もう一つ別な理由もありました。それは、俺自身が、過去に大学の同期の男から、会話の矛盾点を理論的に指摘され、非童貞のふりをしていたことを自白させられ、恥ずかしい思いをした経験があったからです」
リュウヤの顔がまた脳裏にちらつく。
「俺は、順番に対象者の話を聞いていきました。特に初体験の内容は重視しました。それは、一度でもセックスを体験していれば童貞ではないので、初体験の事実さえ証明できれば手っ取り早いと思ったからです。しかし、各人のエピソードを聞いても、童貞、非童貞を判別する決め手には至りませんでした。というのも、対象者には、自由に嘘をつくことや、隠し事をする権利が認められていました。また、話の裏を取って真偽を確かめようと思っても、証人もいない、物的証拠も無い、ネット検索も使えない状況ではお手上げでした。唯一頼りになるのは福助からもたらされる正しい情報だと気づきましたが、福助は何でも教えてくれるわけではありませんでした。特に、福助が最初に述べた問題文を部分的にしか覚えていなかったことを、俺は非常に後悔しました」
俺はメモ帳を握りしめた。




