タイムアップ
《おい、残り五分だ。解答用紙を渡そう》
福助の頭の割れ目から、選挙の投票用紙ほどの大きさの紙が出てきた。
《この紙に答えを記入して、残り時間がゼロになる前に、紙が出てきたスリットに差し込め。一秒でもオーバーしたらアウトだぞ》
「待て!」
《なんだよ》
「対象者の名前の正式な漢字がわからない」
《相変わらず面倒くさいやつだな。答えの表記は何でもいいよ。平仮名でもカタカナでも》
答えの表記?
俺は解答用紙を手に取った。
なんだろう。この違和感は。
タイマーを見る。
デジタル表示の減少につれ、心拍数が跳ね上がっていく。
目を閉じると、いよいよベーリング海の荒波の音が鼓膜の内側で響いているのが聞こえてきた。
落ち着け。
童貞の存在を見抜けなければ、俺は殺される!
そのときだった。
忘却の彼方から、問題文の一節が蘇ってきた。
《見事童貞の存在を見抜くことができたら君の勝ち》
福助は確かそう言ったのだ。
やはりこの謎を解く重要な鍵は、問題文に隠されていた。だから福助は一度しか問題文を言わなかったし、紙に書いて貼っておいてもくれなかったのだ。
そうか、そういうことだったのか!
俺の中で推理の歯車が噛み合い、回転を始める。
思い返してみると、福助は、確かに嘘はつかないかもしれなが、あいまいな表現をしたり、都合の悪い質問には沈黙したりすることが散見された。
だとしたら、あの福助の一言がどうしても邪魔になる。
あの一言さえなければ。あれをどう捉えるべきか。
その判断には、理論だけではなく、直感的な思い切りというものが必要になってくる。
とにかくここはアクセルを踏み込んで突っ切るしかない。
間違いない。
自分を信じろ。
童貞はあの二人のどちらかだ。
しかし、俺の推理が正しかったとしても、合理的な説明がつかない事象がある。そこはどう処理する?
いや、些細なことを気にしている場合じゃない。
わからないことがあってもいい。
前に進むんだ。
時間がない。
《おい。残り時間二分を切ったぞ》
わかってるよ!
《タイムリミット三十秒前になったら、特別大サービスでもう一人非童貞を教えてやろうか? ただし、今度は二百万円だ。なーんてね。ははっ》
くそっ。
舐めやがって。
だがもう覚悟した。
こう書くと決めたんだ。
俺は、解答用紙にペンを走らせた。
そして、福助の頭のスリットに紙を滑り込ませた。
タイマーは残り一分少々というところだった。
ゲーム室が静寂に包まれる。いつしかデジタル表示がゼロになった。




