今市の告白
半田のカミングアウトの処理に悩んだのもつかの間、今度は今市の様子がおかしいことに気づいた。
しきりに両手で頭を抑えたり、膝を揺すったりしている。
「今市さん。どうかしましたか?」
俺は聞いた。
「あの、今市さん?」
今市が握りしめた両手は、小刻みに震えている。
「すみません、僕も言いたいことがあります」
今市は絞り出すような声で言った。
「なんですか?」
「ど、童貞は」
「え?」
「童貞は僕です」
え!? この人、何言ってんの?
立て続けに爆弾発言が飛び出しやがった。
「すみません。意味がよくわからないのですが。今市さん」
俺はつい声が裏返ってしまった。
今市の目から大粒の涙がこぼれた。
「手短に話してください。時間がないので」
「は、はい」
彼は嗚咽を漏らしながら話し始めた。
「五人の中に一人いる童貞は僕です。このゲームの正解は僕なんです」
バカな。
いくらなんでもそれはあり得ないだろ。
「非童貞のふりをしてバレなかったら、高額の報酬がもらえると言われて、このゲームに参加しました。三十万プラス、成功報酬です。自分が童貞であることを隠すために、二人の相手とのセックスの体験談をでっちあげました。でも、もう何もかも嫌になりました。平木さん。騙していてすみませんでした。それに、これ以上自分を騙し続けることもできません。もう限界です。報酬なんていらない。だから僕は、このゲームを降りました。もう無理です」
言い終わり、今市は顔を両手で覆った。
「嘘だな」
俺は指摘した。
「福助から聞いたぞ。童貞の報酬は借金の無効化。失敗したときは重いペナルティが課される。そうだろ、今市さん!」
今市は、はっとして顔を上げた。
「違う。僕が聞いていた条件とは違う」
そしてまた肩を震わせて泣き出した。
「休憩中に福助が言ったから間違いない。聞かされていた条件とは違うんだろうよ。お前の言うことが本当ならな」
俺は言った。
「だが俺はお前の言葉を信じていない。まったくのでたらめを言って、俺をはめようとしているんだ。そうだろ、今市! お前は童貞をアシストするために仕込まれた、非童貞の役者だ!」
今市顔を伏せたまま首を横に振った。
「違います。僕は童貞です」
やっと聞き取れるほどの声だった。
「顔を上げてください。今市さん」
今市はゆっくりおもてを上げた。
一瞬ぎくりとした。
そこにいたのは俺だった。
童貞を隠していたことの後ろめたさ。極度の緊張感の中、演技を続けていたことによる心の崩壊。あるいは、報酬の件で運営に騙されたことへの憎悪。そういった負の感情を凝縮し、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった今市の顔。それはあの、壁にたばこの臭いが染みついた小岩のラブホテルで土下座しているとき、鏡に映った自分の顔とそっくりだった。
たった一度セックスの経験があるかないかの差だ。俺と今市は人間的にはなにも変わらない。いや、すべての男が、少し状況が違っていたらこうなりえたのだ。
ほんの刹那そう思った。
だが俺は、すぐに論理的思考に戻った。
今は感傷にほだされている状況にない。
タイムリミットが迫っている。




