不可解な行動
さて、この五人の中で、中断時間の前後に理屈では説明のつかない行動をとった者が一人いる。
近藤である。
最初にゲームが始まったとき、左右の扉が開き対象者が登場した。
左の扉から近藤と黒咲。右の扉からは小野寺、半田、今市が出てきた。
時間が半分経過し、期せずして十分間の中断に入った。このとき福助により、対象者は控室へ入るよう指示があった。
黒咲は左の控室へ、小野寺と半田は右の控室へ戻った。今市は控室へ入りたがらなかったが、福助に促され左の控室へ入った。これは、半田と同じ控え室へ入りたくないという正当な理由があったからで、前半のいさかいを見ると納得できる。
しかし、近藤は、最初左の控室から出て来たにも関わらず、中断時間が始まると、特に理由もなく右の控室へ入っているのである。ましてや近藤は左端の席だから、左の控室に最も近い位置にいるのに(図1)。
図1 ゲーム室の見取り図
これは、どう考えても変だ。
俺がそのことに気づいたのは、十分間の休憩が終わり、対象者が控室から出てきたときだった。今市が椅子から立たないという行動の影に隠れ、最初は見落としていたから、扉から出てきたときに初めて気づいたのだ。
福助は、必ず最初に待機していた控室に戻らなければならない、とは言っていないし、現に今市が逆の控室へ入ることも認められている。だから、近藤が右の控室へ入っても別にルール違反ではないのだろう。だが、特に何も理由がなければ、元の控室へ戻るはずである。
となると、近藤が右の控室へ行かなければならない事情があったと推測される。
その事情とは何か?
右の控室へ入った対象者に用事があったと考えるのが自然だ。
半田か小野寺にどんな用事が?
半田だとしたら、近藤のしたいことは何となく想像がつく。
近藤は、半田のしでかした過去の昏睡レイプが、ひとり娘を持つ親として許せなかった。だから何か一言言ってやろうと思い、反対側の控室へ行った。
そういう流れである。
小野寺だとしたらどうか。
その場合もやはり娘の存在が関係しているのではないだろうか。
小野寺はこの胡散臭いデスゲームで、彼女の本名を明かすことに抵抗を示し、ナツキという仮名を用いた。同様に近藤も、娘の名前や生年月日を偽っていたらどうだろうか。
近藤は四十四歳。娘は小学生と言ったが、高校生でも不思議ではない。
一方、これは五人の会話に全体的に言えることだが、会社名や地名など、固有名詞に乏しい。そんな中、小野寺の手記に登場した玉川上水駅という具体的な名詞は際立ち、個人を特定する手がかりになりえる。
つまり、小野寺の彼女ナツキは近藤の娘であるという推理だ。
近藤は玉川上水駅付近に住んでいて、高校生の娘は二週間前にポンパドールの髪型で映画を観に行った。最近同じクラスの彼氏ができて、夏祭りでキスをしたという情報も知っていた。そんなことは普通父親には言わないが、母親には友達感覚で言っていたかもしれない。近藤はそれを母親づてに聞いていた。だから、小野寺の手記の朗読を聞き、こいつが彼氏だとピンときた。
小野寺と同じ控室へ入って、まさか今時怒鳴りつけはしないだろうが、ちょっと確認するくらいのことはするかもしれない。
もちろん、偶然というには出来すぎているので、運営スタッフが対象者の人選をするときのいたずら心、といったところだろうか。
この推理が正しければ、近藤と小野寺は二人とも非童貞の一般人という公算が高くなる。
いや、ちょっと推理が飛躍しすぎだろうか。
近藤が右の控室へ入った理由は、半田や小野寺とは関係なく、全く別の理由かもしれないのだ。もしくは、何の理由もなく、ただなんとなく右の控室へ入った可能性も否めない。
とにかく俺は、近藤の不可解な動きが気になって仕方なかった。
泳がせるつもりだったが、具体的にどう泳がせるのかというプランが思いつかない。そんなに悠長に構えている時間もない。
「近藤さん」
疑問をストレートにぶつけてみるしかない。




