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10分間の中断③

「そういえばさ、童貞の定義ってなんなの?」

《は?》

「だからこのゲームにおける童貞の定義だよ。例えば中折れしたらセックしたことにならないとか。お金を払ったらセックスした内に入らないとか。いろいろ考えられるだろ」

《いちいち理屈っぽいやつだな。お前が女にモテない理由がわかるぜ》

 福助はこき下ろした。

 そして、こう説明した。

《このゲームにおける童貞の定義はこうだ。童貞とは、女性とセックスした経験のない男性のことを指す。セックスとは口や肛門ではなく女性器に勃起した男性器を挿入し、射精することを示す。避妊、お金の介在、女性の同意の有無は問わないとする。これで満足か?》

「ありがとう」

 いきなり聞かれた割には返答がスムーズな気がした。

まあ、定義を聞かれることくらい想定済みで、答えを用意していたと考えれば不思議でもないか。

 一つの疑問が解消されると、また別の疑問が生じた。

「あのさあ……」

《何だよ》

「いや。何でもない」

 俺は、ふと頭に浮かんだことを言いかけてやめた。

 そしてまた、必死になって冒頭の問題文の記憶を手繰った。それは、一週間前の晩飯を思い出そうとするのにも似たもどかしさがあった。

 俺はメモ帳を見返した。

 何度見直しても、そこには完全な形の問題文は書かれていない。

 そのとき、はっとした。

 人間諦めずに何度もトライしてみるものである。

 福助が最初に言った問題文の一部分を思い出した。

『素人の一般人の言動は制御できないからな』

 そう福助は言ったのだ。

 俺は、例の単語の羅列による意訳メモを読み返し、てっきりこう思い込んでいた。

 童貞はプロの役者で非童貞のふりをしており、非童貞の四人は全員素人の一般人である。

 これがそもそも間違いだったのだ!

 福助はそうは言っていない。

 非童貞が全員素人の一般人だとは限らないのだ。 

 つまり、非童貞の中にも役者が紛れ込んでいて、解答者を攪乱したり、童貞が隠れるのをアシストしている可能性があるということだ。

 俺は対象者を、童貞と非童貞の二種類だけに分けて考えていた。だが実際には、童貞、非童貞の素人、非童貞の役者、の三種類かもしれないのだ。

 童貞はプロの役者で俺を騙そうとする。これは福助が明言しているから間違いない。また、福助は素人の一般人の存在に言及しているから、対象者の中に少なくとも一人は素人の一般人がいなければおかしい。問題は、残りの非童貞の三人。その中に『仕込み役者』がいてもおかしくないのだ。その内訳は未知数で、ゼロかもしれないし、あるいは三人が敵側の人間かもしれないのだ。

 それに加え、善良な一般人の素人ですら、恥ずかしいなどの個人的な理由で本当のことを言わなかったり、間違えたり、忘れたり、黙秘したりすることもあるのだ。一般人の発言ですら完全には信頼できないことになる。

 そういう厳しい状況の中で、何とかして真実に辿り着くことが求められる。

 これはそういう性質のゲームなのだ。

「福助。俺は気づいたぞ。非童貞の中にも仕込み役者がいるんだろ?」

《……》

 俺の問いに福助は肯定とも否定ともとれる沈黙で応じた。

直感的には、いる、と思う。福助は嘘がつけない以上、都合の悪いときは黙るしかないのだから。  

 ともかく、後半は童貞非童貞だけでなく、非童貞の仕込み役者の存在も頭に入れておかなければならない。

 俺は心の中で、非童貞の仕込み役者のことを、俺を欺く変化者という意味を込め、『シェイプシフター』と呼ぶことにした。

《おい。もうすぐ後半が始まるぞ》

 福助が言った。

 え、もうそんな時間? 

十分間はあっという間に過ぎていた。しかし、福助がしゃべってくれたおかげで少しは進展した気がした。

 両扉がガシャンと開いた。

 対象者が控室から出て来て、元の椅子に座った。

 このとき、俺はある男の不可解な動きに気づいた。が、その場で指摘することはせず、泳がせることにした。



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