今市陸の性体験の聞き取り②
ふと見ると、彼はさっと目をそらした。
怪しい!
「今市さんは自己紹介で初体験の話をしたとき、二十二歳のときバイト先で知り合った彼女が相手だとおっしゃった」
「はあ。何かおかしいですか?」
「二年制の専門学校を卒業したのは二十歳のときですよね。二十二歳のときは期間工をしていたはずです。今市さんが最初に言われた、二十二のときバイト先で知り合った彼女と初体験したという話と矛盾しませんか?」
「いえ、矛盾しませんよ。期間工もアルバイトも非正規雇用という点では同じじゃないですか。たまたま期間工のことを、アルバイト、という言葉で表現しただけですよ」
「ではそういうことにしましょう。彼女とは職場で知り合った、とあなたは言った。これは、彼女も同じ職場で働いていた、ということでよろしいですか?」
「そうです。それ以外に何かありますか」
「自動車工場の期間工という職場に、一体どれくらい女性がいるんですかねえ」
「何が言いたいんですか?」
今市は口元をゆがめた。
「自動車工場は、女性がいたとしてもおそらく少数だと思うんですよ。女性が極端に少ない職場というのは、得てして恋愛の競争率が上がる傾向にある。かなりの男前でない限り、職場恋愛を成就させるのは困難な状況といえるでしょう。工業高校や鉄道サークルと同じでね」
「だから?」
「今市さんの初体験は作り話だということです」
「それはつまり?」
「あなたが童貞の可能性が高いということです」
俺は今市を見据えた。
「はっ。あまりにも馬鹿馬鹿しい論法だな。さっきから探偵気取りか何か知らないが。失礼にもほどがあるよ」
今市は、今度はうんざりした態度を示した。
「ところで平木さん。あんたは期間工をしたことがありますか?」
「ありませんが」
「期間工は男性中心の職場である。そんなものは大昔のイメージですよ。僕が働いていたのは十年近く前ですが、工場によっては三、四割が女性というところも珍しくなかったですから」
これについては今市が言う通りなのだろうと思った。
「わかりました。疑ったことは謝罪します」
俺は質問を変えることにした。
「経験人数は二人とおっしゃいましたね?」
「ええ」
「二人目の体験談を話していただけますか? 今市さんが何歳のときですか? それと、出会った状況とか相手の方のこととか」
「ええと、二人目の体験は、僕が二十六のとき。二歳年下の人と。マッチングアプリで知り合って」
「へえ、そうなんですね。どんな方ですか? その方は彼女ですか? それともお金を払って一回限りとか、そういう感じの出会いですか?」
「何度かデートして付き合いましたよ。一応、彼女ということになりますかね。短期間でしたが」
嘘としか思えない。
出会い系サイトやマッチングアプリの類は手軽そうに見えるが、実際はそう簡単には出会えない。
二十四歳の女性がサイトに登録しようものなら、初日に三桁の男性会員からメッセージが来ることも珍しくない。女性はその中で特に条件の良い男性にしかアクションを返さないから、男性会員はこの段階でかなり振るい落とされる。運よくメッセージのやり取りまで進めても、女性は同時進行で五人程度と連絡を取り合っているのが普通である。だから、少しでもこいつは合わないと感じたら、男性は即座にブロックされ、連絡が取れなくなる。その五人の競争を勝ち抜いて、デートまでたどり着けたとする。ここで初めて、実際に対面することとなるが、女性にとっては数百人から選んだ一人なので、男性に対する期待感はものすごく上がっている。だから、少しでも嫌なところがあったり、つまらないと感じたりしたら落差が生じる。そんな男と二回目のデートをする義理はない。ましてや、付き合って体の関係になる必要など全くない。相手は他にいくらでもいるのだ。
今市は本当にこの難関をクリアしたというのだろうか?
「相手の方の職業、性格、容姿などを教えてください。あと、デートした場所とか、付き合って体の関係になる過程などを具体的に話してください」
俺の言葉に、今市の表情がますます曇った。
ちょっと立て続けに質問しすぎただろうか。
「おい。あんたさあ、さっきから何なんだよ」
今市の口調が変わった。




