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半田義春の性体験の聞き取り③

 ただ、些細なことが一つ引っかかった。

「そのタトゥーは何歳のとき入れましたか?」

「え? 二十一のときだけど」

「そうですか。半田さん。あなた嘘をついていますね」

 半田は無表情で「何が?」と言った。

「半田さん。デリヘルなどの風俗店はですね、タトゥーをしていると利用できないんですよ。なのにあなたは、たまにデリヘルを利用していると言っている。そのタトゥーがペイントやシールだというのなら、風俗には行ける。しかしその場合あなたはヤンキーを演じていることになる。どちらにせよあなたは嘘をついている。半田さん。童貞はあなたです。そうですよね!」

 俺は言った。

 半田はこれを笑いながら否定した。

「いやいやいや、その推理、無理ありすぎでしょ。タトゥー入れてても暗黙の了解で利用できる店はいくらでもあるだろ」

 そう言って、半田は具体的な店名を挙げた。

「福助、これは本当か」

《これ?》

「風俗店の名前のことだよ」

《知るかよ》

 カマかけはまたしても空振りに終わった。

 俺は天を仰いだ。

 対象者からそれぞれの性体験を聞き出し、その会話の中から矛盾点を探す。その矛盾点を理論的に追求することで童貞を見つけ出す。

 俺はこのゲームの攻略法をそう考えていた。

 おそらくそのやり方で間違いはないのだろうが、いかんせん手ごたえがない。

 その理由は明白だった。

 対象者の言葉が嘘か本当か判断できないからである。

 例えばこれが裁判であれば、証言や証拠品から被告人の行動の裏付けを取ることができる。

 しかしこのゲームでは、対象者本人の言葉しか手がかりがない。しかも対象者はいくらでも嘘をついたり、隠し事をしたりすることができる。唯一の頼みの綱は嘘をつかない福助だが、彼はなかなか情報を提供してくれない。

 なので対象者の発言に違和感があっても正確な情報による裏付けが取れないから、童貞非童貞を判別する決定打にはならない。

 それが、なんとも言えない浮遊感というか、手ごたえのなさにつながっているような気がする。

 あと一人今市の性体験の聞き取りが残っているが、同じようなやり方で攻めても期待する成果は得られない可能性が高い。

 水平思考とでもいうのだろうか。

何か、別の切り口の取っ掛かりが欲しい。

 もっと別の視点に基づいた何かが、このフーダニットを解くために必要だ。

 いや。ヤっていないやつを探すゲームだからフーダニットではないか……。

 俺は、メモ帳の最初のページを見返した。


《またお得意のシンキングタイムか》

 福助が言った。

《彫刻の、考える人、じゃあるまいし。対象者と話さないと何も進まないぞ》

 すでに見飽きた五人の顔を左から順に見ていった。

 理論に頼るな。

 感覚を信じろ。直感的に。

 頭を空っぽにして。

 近藤さん。優しそうなお父さん。この人には妻子がいる。

 黒咲騎士。変な名前のかっこいいホスト。

 小野寺純君。肌に若さを感じる。そういえば、初体験の手記の朗読、途中までしか聞いてなかったなあ。

 そう考えたときだった。

一つの天啓ともいえるアイデアが降ってきた。

 俺は小野寺の顔を凝視した。

 

「童貞が誰かわかったぞ!」

 俺は叫んだ。


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