44.魔女の思い
そこはダイニングのようになっており、一人暮らしには大きすぎる10人掛けのテーブルがあった。壁にはいくつかの大きな絵画が飾られており、アレンが興味深そうに見ていると女がクスリと笑って言った。
「あまりまじまじと見ないで、掃除の粗が見つかったら恥ずかしいわ」
「あ、すみません。あまりに立派だったのでつい……」
アレンはそう言って目を逸らした。女はフルーツをカットし、皿に盛りつけ、紅茶を淹れた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
アレンは紅茶を一口飲んで言う。
「どうして大切な果実をくれようと思ったんですか?」
「いい子そうだったから」
「え?」
「ここにずっと住んでるけど初めてよ。フルーツバスケット持って来た子」
「そうなんですか。でも、それだけで?」
「ええ、それが一番大事よ。あの果実には活力をみなぎらせる力があるの。だから悪用されるわけにはいかないのよ。でもあなたなら大丈夫とみたわ」
「友人を救う以外には絶対に使わないと約束します」
「ええ、信じてるわ」
アレンは女と和やかなティータイムを楽しみ、その後ティムたちの眠る部屋に戻ってゆっくりと休んだ。
翌朝、アレンは皆よりも先に起きて窓の外を見ていた。美しく咲くバラの庭園がどこまでも続いている。庭では女が花に水をやり、バラを摘んでいた。しばらくするとティムがゆっくりと目を開けて周囲を見渡し、ブラッドとケイは飛び起きて自分の腕を確認する。アレンが気ついて3人に声をかける。
「おはよう。みんな身体に違和感はない? 大丈夫?」
「大丈夫だけど……ってあれ? そう言えば生きてる」
ケイが不思議そうに言った。
「あいつはどうなった」
ブラッドがアレンに聞くと、アレンは窓の外を見て言う。
「あそこにいるよ」
ブラッドが窓辺に近づき、外を見る。女が花を摘みながら踊っている。ブラッドは眉をひそめて見つめた。ティムが不思議そうにアレンに尋ねる。
「僕たちも生きてるし、魔女さんも生きてるし、ベッドまで用意されてるってどういう状況?」
「昨日みんなが打たれたのは麻酔だったんだ。ナンシーさんは俺たちがどういう人間か知りたくて試したみたい」
アレンが説明する。
「誰⁉ ナンシー?」
ケイが聞く。
「あの魔女さんの名前ナンシーって言うんだって。昨日、お茶したときに教えてもらったんだ」
ブラッドが呆れた様子でアレンを見て言う。
「のんきなものだな。変な奴が淹れたお茶をよく飲めるな」
部屋の扉が開いて、ナンシーがバスケットにたくさんのバラを摘んで戻ってきた。ナンシーがアレンたちを見て明るく声をかける。
「あら、皆さんお目覚めね。庭でバラを摘んできたの。今、ローズヒップティー淹れるわ」
「いら――」
ブラッドが断ろうすると、アレンがブラッドの腕をひいて遮るように答える。
「ありがとうございます。準備できたら向かいます」
ナンシーは微笑んで奥の部屋へと歩いていった。ブラッドが腕を振りほどいて言う。
「おい、何のつもりだ。あんな変な奴が淹れたお茶を飲む気はないって言ってるだろ。それより果実はどうした」
「果実はもう昨日もらったよ。だから安心して」
アレンが言った。
「そうなんだ。良かったじゃん!」
ケイが嬉しそうに言った。
「だったらなおさら、こんなとこさっさと出るぞ」
ブラッドがそう言って荷物を持ち、ティムとケイも荷物を持った。アレンがブラッドの荷物を奪って言う。
「待ってってば! 昨日、少し話して思ったんだ。彼女は悪い人じゃないって。それにずっと一人ぼっちでここにいるから寂しいらしいんだ」
「知るか、そんなこと。だったら街に出ればいいだろ。結界まではって他人を拒んでおいて何言ってんだ」
ブラッドが荷物を奪い返して言った。
「魔女だから偏見持たれるし、大事な果実も守らなきゃいけないし、ナンシーさんもいろいろ事情があるんだよ。お茶の一杯くらい付き合ってよ」
アレンが真剣な眼差しで言った。ティムとケイは荷物をそっと置いた。
「一杯くらい、いいんじゃない?」
ティムがブラッドを見て言った。ブラッドは皆の顔を見回してため息をついて荷物を置いた。
「一杯だけだぞ」
そう言ってブラッドは奥の部屋へと向かい、アレンたちも笑顔で顔を合わせ、後をついていくのだった。お茶会中ブラッドは終始無言だったが、何事もなく楽しく過ぎ去った。
そして別れのとき、アレンたちは庭の門前に並んで立っている。
「アイリスちゃんが無事に目覚めること祈ってるわ」
ナンシーが言った。アレンが軽く会釈して言う。
「はい。ありがとうございます」
ナンシーが4人の前で両手を上に向かって大きく円を描くように広げた。すると、4人にふわっと風が吹きつけた。ブラッドが眉をひそめて言う。
「何だ。今、何をした」
ナンシーが微笑んで言う。
「外に出たらわかるわ」
4人は門を開けて城の外に出た。すると、舗装された石畳の並木道が真っ直ぐに続いていた。昨日通ったときは岩が転がる山道だったところだ。
「これって……」
アレンが呆然としているのを見て、ナンシーが説明する。
「本当の景色はこれなの。城全体を結界で覆って、険しい山に見せているだけ。そうすると不気味がったり危ないと思って人が寄り付かなくなるからね。さっき、あなたたちに結界を見破る魔法をかけたの。これで迷わずに帰れるはずよ」
ティムが周囲を見渡しながら言う。
「山ですらなかったなんてびっくりだね……」
そしてアレンたちはナンシーに別れを言って、並木道をゆっくりと歩いて帰るのだった。




