34.それぞれの思惑
「これは?」
ケイは不思議そうに聞く。ブラッドはシビルをにらんで言う。
「余計なことするな」
「あら、どうして? 怪我してる人を放っておけないじゃない」
「どの口が言ってんだ。見捨てても何とも思わないって言ってただろ」
「あら、それは二人だけの秘密でしょ」
「約束した覚えはない。だいたいこの先何があるかわからないんだぞ。何かあったらどうするつもりだ」
「そんなの私には関係ないわ。ケイが決めたことよ。私が行けと言ったわけじゃないもの」
言い争う二人の会話にケイが割り込む。
「ねえ、ちょっと! これは何だって聞いてんだよ!」
「ああ、そうだったわね」
シビルがそう言って、ケイの方を見て話を続ける。
「それは回復薬よ。それを飲めば傷が治るわ。ブラッドはそれを飲んだの。効果は見ての通りよ。ただし――」
ケイは話の途中で薬を飲む。そしてその場に倒れて眠ってしまう。シビルはケイを見て言う。
「あら、せっかちな子……」
ブラッドはため息をつく。
「ケイを利用するつもりか?」
ブラッドはそう言ってシビルを見る。
「彼女は自主的にあなたたちを手伝いたいと思ってる。こんな好都合なことないじゃない」
「ケイを利用できる駒としか思ってないだろ。こいつには何の関係もないんだよ。自分がどんなことに首を突っ込んでるかもわかってない。そんな奴をよく利用できるな」
「私を悪者にしたいようだけど、私は何も言ってないわよ。彼女が勝手に決めていたこと。それを実行しやすくするために薬を分けてあげただけ。私にとってもその方が好都合だからね」
「薬を渡さなければケイはついて来れない。それをわかってておまえはいい人ぶってケイに薬を渡し、危険に晒そうとしてる」
「いい人ぶったつもりはないわよ?」
「じゃあ、ケイが村に帰るって言ったら薬を渡したか?」
「渡さないわね」
「やっぱりな」
「だって安静にしてたら治るもの。この薬を使う必要がないじゃない」
「そうじゃないだろ。アイリスを救う手駒にならない奴はどうでもいいんだろ」
シビルはため息をつき、話し出す。
「わかった。観念するわ。たしかにアイリスを助けるためには人手があった方がいいって思いはあるわ。もちろん、あなたたち4人にも無事で戻ってきてほしいしね。だからケイが手伝ってくれたらその両方を達成できる確率が上がるって思った」
「やっぱりな」
「でも、私がどう考えてようと嫌がるケイに無理強いするつもりはなかったからセーフでしょ?」
「アウトだ。信用できないからな」
「あら、残念。まあいいわ。じゃあ、次はあなたの番よ」
「何のことだ」
「ケイを好きなんでしょ? だから必死に守ってるんでしょ?」
「違うって言ってるだろ。あいつは、村の掟で生け贄になるはずだった。そんな状況からクレイグが救い出したんだ。安全な場所で暮らせるようにしてやるべきだろうと思っただけだ」
「あら、そうだったの。でも彼女はそれを望んでないみたいね。あなたたちと一緒にいることが楽しいって言ってるし、快くつれていってあげたら?」
ブラッドがため息をついてから話す。
「それで、おまえはこれからどうするんだ?」
「そうね。あの街娘1から4を街に帰したら村に戻るわ」
シビルはそう言って薬の小瓶をブラッドに手渡す。
「そうか。ありがとう……いろいろと」
「あら、突然どうしたの? 急に素直になるなんて。まるで死んじゃう人みたいよ?」
「アジトで助けられたのに礼を言ってなかったからな。それにおまえがいなかったらケイを救えなかった」
「いいのよ。気にしないで。ティムの大切な人を死なせるわけにはいかないじゃない⁉ それに、友達の友達は友達って言うじゃない」
「いや、他人だ」
「他人ね」
「もう寝ろ」
「あなたが寝なさい。見張りは任せて。私は帰るだけだけど、あなたはそうじゃないでしょ。休めるときに休んでおかないとね」
シビルがそう言うと、ブラッドは少し考え、コップをその場に置きながら言う。
「悪いな。じゃあ、何かあったら起こしてくれ」
ブラッドはそう言って横になる。シビルは火を絶やさないように枝をくべながら静かに星空を眺めるのだった。
そして翌朝、見張り役だったシビルは座ったまま寝ていた。焚火は消え、辺りが明るくなってきた。皆が静かに眠っている中、その時間は突然終わりを迎える。ケイが飛び起きて叫んだのだ。
「ただし何っ⁉」
その声に驚いて皆が目を覚ます。シビルがケイを見て言う。
「どうしたの? 何?」
ケイがシビルに近づき、腕をつかんで聞く。
「ただし何? 何があんの?」
「何? 何の話?」
シビルが戸惑っていると、ブラッドが起き上がり言う。
「朝から騒がしい奴だな。話の途中で飲むからそうなるんだよ」
「だって話し終わったと思ったんだもん。で、何なの続き!」
ケイがシビルに詰め寄る。
「ああ、薬の話ね! 大丈夫よ。8時間眠り続けるってだけだから」
シビルがそう言うとケイは安堵の表情を浮かべ、その場に腰を下ろした。そして自分の身体を見て言う。
「ほんとに効くんだ。傷一つないし、痛みもなくなった。やるじゃんあんた」
「ありがと」
シビルが微笑む。




