33.シビルのやり方
月の花を見つけたアレンたちだったが、幻の世界に迷い込んでいた。アレンはアイリスと向かい合って座り、話をしている。
「そろそろ家に帰ろうか」
アレンが言う。
「え? どうして? ここが私たちの家よ」
アイリスがそう言うと、辺りの様子が花畑からアイリスの家に変わる。
「え? あれ? どうして……」
アレンは困惑しながら周囲を見渡す。その様子をアイリスが微笑みながら見ている。
「そっか、家か……」
アレンがつぶやく。
「アレンの似顔絵描いてもいい?」
アイリスが言う。
「いいけど……何か大切なこと忘れてる気がする」
「大丈夫、大丈夫。ほら、そこに座って」
アイリスはアレンを丸椅子に座らせる。
「ティム! ティムとクレイグは⁉」
アレンは勢いよく立ち上がりながら言う。すると景色が花畑に戻っていく。そこには倒れたクレイグと一人で喋っているティムがいた。アイリスは悲しそうな表情でアレンを見つめて言う。
「どうして? 私よりそっちの方が大事なのね……」
アイリスの体は半透明になり、今にも消えそうだ。
「ち、違う。アイリスは大事だけど……」
アレンは困惑しながら言う。
「じゃあ、抱きしめて」
アイリスは小さく両手を広げる。アレンは手を伸ばして一歩踏み出すが、立ち止まった。
「いや、アイリスはそんなこと言わない。君はアイリスじゃない!」
アレンの言葉と同時にアイリスの体から白い光が放たれ、辺り一帯を照らした。まぶしさでアレンは目を閉じた。光が収まり目を開けたときにはアイリスの姿はなかった。アレンはクレイグの元へと駆け寄った。
「クレイグ! 大丈夫? クレイグ!」
クレイグはゆっくりと目を開けてアレンを見る。
「おまえ……正気に戻ったのか」
「ごめん。幻見てたみたい」
「ああ、変なとこだな」
そう言って、クレイグが体を起こす。そして少し離れたところにいたティムも正気に戻る。
「あれ? ドワーフは?」
ティムが周囲を見渡しながら言う。
「バカ! 幻だ! いつまで寝ボケてんだよ」
クレイグが言う。
「幻? そっか、幻か……ごめん」
ティムがアレンたちの元に近づく。
「きっとこの花のせいだね。またおかしくならないように早く持って帰ろ」
アレンはそう言って月の花を採取した。そして3人は馬に乗り、花畑を離れた。
アジトから無事に脱出したブラッドたちはアリオト砂漠の大きな岩陰で野宿していた。ブラッドとシビルが焚火を囲んで座っている。4人の街娘たちは身を寄せ合って眠り、ケイは鞄を枕にして横になっている。ブラッドがコーヒーをすする。それを見てシビルが声をかける。
「あんまりコーヒーばっかり飲んでたら眠れなくなるわよ」
「そのために飲んでんだよ」
「寝ないつもり?」
「砂漠の真ん中で全員が爆睡したら俺たちに明日はない。自殺行為だ」
「俺たちに明日はない。かっこいい! さすがね」
「いいから早く寝ろ」
ケイが目を覚まし、ブラッドに言う。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど」
ブラッドがケイの方を見る。
「まだ起きてたのか」
「元気そうだけど、あんた傷は?」
「私が――」
「黙れ」
シビルが答えようとするのをブラッドが遮る。そして話を続ける。
「朝になったらメグレスに送ってやるから今はゆっくり休め」
「役立たずは置いてくってわけか」
ケイはそう言ってブラッドを見る。
「ああ、動けない奴を連れて行く余裕はない」
「またそんな冷たい言い方して」
シビルが話に入る。
「おまえは黙ってろ」
ブラッドがシビルをにらんで言う。しかしシビルは話を続ける。
「自分のせいでケイを危険な目に合わせたから突き放そうとしてるのね」
「違う」
「こういうときは素直が一番よ」
「どういうときだ」
ケイが二人の会話に割り込む。
「あのさあ! あんたたちがどう考えてるかはどうでもいいけどさ、私はアレンとの約束を守っただけだから」
「フラれちゃったわね」
シビルがブラッドに言う。ブラッドは目も合わさずコーヒーを飲んでいる。ケイがシビルに話しかける。
「ところであんたさっきあいつらに何してたわけ?」
「え?」
「ほら、何か匂わせてたじゃん」
「ああ、あれね。あれは二度と悪さできないように死ぬまで悪夢を見させておいたの」
「悪夢?」
「あの薬を嗅ぐとその人の一番恐れていることが起きる。もちろん幻だけど彼らはそのことには気づかない。一生終わらない恐怖を味わい続けるってわけ」
「へえ……そんな薬あるんだ。やるじゃん。あいつらどうしようかと思ってたんだよ。じゃあ、あいつらはもうあのアジトから出ることはないってことだろ?」
「そうよ」
「そっか、よかった。きっとあいつらも喜ぶだろうね」
ケイはそう言って、静かに眠る4人のメグレスの娘たちを見る。
「優しいのね。あなたも怖い思いしたのに他人の心配してあげるなんて」
シビルがケイを見て言う。
「私は街を離れればいいけど、あいつらはそうはいかない。自分の街を出て他の街に移り住むってなかなかできないじゃん」
「戻るつもりか? 村に」
ブラッドがケイを見て言う。
「今さら戻れないよ。それにあんたたちといたら面白そうだからついてくって決めたんだよね」
「そんなボロボロになったのにまだ懲りてないのか?」
「生きてりゃボロボロになる日だってあるさ。こんなことでビクついてたら生きてらんないよ」
「強いのねえ……」
シビルがケイを見てつぶやく。
「どんな状況で生きてきたんだ」
ブラッドが言う。
「それじゃあ早く傷を治さないとね」
シビルがそう言ってケイに小瓶を手渡す。




