32.上には上がいる
馬賊のアジトに潜入したブラッドたちは、次々と襲いかかる手下たちを斬り倒していた。頭目はにやけた顔でその様子を腕組しながら見ている。
「粘るなあ。いつまでもつかな」
手下たちは次々と負傷し、躊躇し始める。
「こいつら強え……」
シビルが小声でブラッドに話しかける。
「これ全部相手するのは面倒だから隙見て奥へ行きなさい」
「一人でどうするつもりだ。すぐには戻れないぞ」
「いいから早く助けてあげなさい」
頭目は近くにいる手下を後ろから蹴りつけて言う。
「ビビってんじゃねえ!」
頭目は剣を構える。
「全員、俺に続けえ!」
頭目と手下たちが一斉に襲いかかる。二人は攻撃をかわしながら一人一人斬りつけて突破口を開く。ブラッドは隙をみて奥の通路へと走り出した。
「逃がすな!」
頭目の声で手下たちが追いかけようとするが、シビルが片っ端から切り捨てる。
「女、おまえ何者だ」
頭目がシビルをにらみつけて言う。シビルはフッと笑う。
「強い奴は特別な奴ね。自分より強い奴はいないとでも思ってたのかしら? 世間知らずはこれだからね」
「生意気な女だ」
「女だ男だ言ってる時点であなたの負け。ちょっとでも長生きしたければその剣を捨てなさい」
「黙れ! なめやがって!」
「小さな世界で王になった気でいるみたいね。でもあなたは群れなければ何もできない臆病者よ」
頭目は怒りをあらわにしてシビルに斬りかかる。
「クソ女!」
シビルは頭目の剣をはじき飛ばして斬りつける。飛ばされた剣は地面に落ちた衝撃で折れてしまう。頭目は片膝をついてシビルを見上げる。シビルは頭目の首元に剣を突きつける。手下たちは一瞬の出来事に驚いて立ち尽くすのだった。
その頃、奥へと向かったブラッドは突き当りに牢屋を見つける。中をそっと覗くとケイが倒れているのが見えた。
「ケイ!」
ブラッドが声をかける。しかし反応がない。ブラッドは周囲を見渡し、鍵を見つけると急いで中へと入った。ケイの服は薄汚れていて体中にアザがある。ブラッドはケイを抱き起して軽く体を揺さぶって呼びかける。
「ケイ! ケイ!」
するとケイが薄っすらと目を開けてブラッドを見て言う。
「ブラッド?」
「大丈夫か?」
「動けるようになったんだ」
ケイはそう言って少し微笑んだ。
「俺のことはいい。とにかく出るぞ」
ケイが軽く頷き、ブラッドはケイを抱えて牢屋を出る。すると、どこかから声がする。
「待って!」
女の声だ。ブラッドが周囲を見渡すと施錠されたドアがもう一つあった。ドアには小さな小窓がある。ブラッドはケイをそっと壁にもたれるように座らせ、小窓を静かに開ける。そこには4人の女が閉じ込められていた。メグレスの街でブラッドを見舞いに来た女たちだ。
「お願い、助けて」
女たちは涙を浮かべてブラッドを見つめる。ブラッドは一瞬驚いたが、冷静な口調で女たちに言った。
「今、開けてやる。だが勝手な行動はするなよ。俺の指示に従うと約束しろ」
女たちは何度も頷く。ブラッドは近くに掛けてある鍵を見つけてドアを開けた。牢屋から出た女たちはブラッドに駆け寄り、泣きながらしがみつくのだった。
「静かにしろ。泣くのは後だ。無事に出られたときにとっておけ」
ブラッドはそう言って女たちを離れさせ、ケイを抱えて歩き出す。女たちは鼻をすすりながら互いに手を取り合って後をついて歩くのだった。ケイがブラッドを見て言う。
「あんた一人?」
「黙って寝てろ」
ブラッドはそう言って黙って広間へと向かう。しかし、広間に近づくにつれて静かすぎる違和感を感じる。ブラッドは陰からそっと広間を覗いた。すると、頭目の男は倒れ、手下たちは二人ずつ後ろ手に縛られていた。そしてシビルが嫌がる手下たちの鼻先に小瓶を近づけているのが見えた。ブラッドがシビルに声をかける。
「何してんだ」
シビルは振り返って笑顔で言う。
「あら、見つかったのね。よかったわ。でも多いわね」
シビルがそう言って女たちを見る。
「ついでだ」
「そう」
縛られている手下の男がブラッドに向かって叫ぶ。
「た、助けてくれ! 俺たちが悪かった! 頼む!」
すると手下たちが次々と声を上げ始める。
「この女、何とかしてくれ!」
「何か変なもの嗅がせてくるんだ!」
「何でもやるから!」
ブラッドはシビルの手元を見て言う。
「で、それは?」
「ああ、これ? ちょっと暇だったから」
シビルはそう言って小瓶を鞄に入れる。ブラッドはまともに答えないだろうと思いながらもシビルに聞く。
「こいつらどうやって……って言ってもどうせ――」
「ひ・み――」
「もういい、行くぞ」
ブラッドは言葉を遮り歩き出すのだった。その後ろをシビルと女たちがついて行く。ケイがじっとシビルを見つめていると、その視線に気づいたシビルが軽く微笑みながらケイに声をかける。
「大丈夫よ。もうすぐ帰れるわ」
するとケイがボソッと言う。
「変な奴」
「あら、意外な反応」
シビルたちはそのままアジトを後にする。男たちは助けを求めて叫び続けたが聞き入れられることはなく、アジト内を空しく響き渡るだけだった。




