31.月の花
日が落ちて薄暗くなり、月明かりだけが辺りを照らしている。アレンたちは焦っていた。
「この辺のはずなんだけど……」
アレンがつぶやく。
「もう暗くなってきちゃったね。花畑なんてどこにもないよ?」
ティムが辺りを見渡して言う。
「同じとこに出現しないってことか……」
クレイグが言った。そのときだった。数十メートル前方で地面一帯が輝き始める。
「あ! あれ見て!」
アレンが前方を指さして言う。クレイグとティムがアレンの指す方を見る。すると、さっきまで何もなかったところに輝く花畑ができていた。3人は馬から降りて花畑に近づいた。白い美しい花が咲いており、一つ一つが月の光を放つように光り輝いていた。
「きれいだね」
アレンがつぶやく。
「これが月の花。月の光を浴びて咲くからそう言うんだね」
ティムが言う。
「ほら、さっさと採って帰るぞ」
クレイグが言う。
「ええ⁉ もっとゆっくり見てからでいいじゃん。もう二度と見れないかもしれないんだよ」
ティムが言う。クレイグが鞄から瓶を出しながら言う。
「花なんかどれも一緒だろ」
「発光する花なんてないよ」
「その辺の花に豆電球でも入れりゃいいだろ」
「もう。どんな貴重なものもクレイグには意味ないね」
ティムが呆れて言う。二人が言い合っている隣でアレンは呆然と立ち尽くしている。そんなアレンに気づいてティムが声をかける。
「アレン? どうし――」
「アイリス?」
「え?」
ティムの声が届いてないようにアレンは遠くを見ながらゆっくりと歩き出して、しばらくするとその場に座りこんだ。
「アイリスよかった……よかった……」
アレンは突然涙を流す。ティムはアレンのそばに行き、アレンの肩を揺さぶりながら言う。
「アレンどうしたの? アレン!」
「何してんだよ。早くしろよ」
クレイグが遠くから叫んでいる。
「クレイグ、アレンがおかしい! 急に泣き出しちゃった」
ティムがそう言うと、クレイグが近づいてきてアレンの様子を見る。アレンは泣きながらどこかを見て話をしている。
「ごめん。そうだけど、あの時ほんとは大丈夫かなって気になってたんだ」
クレイグはアレンを怪訝な目で見つめて言う。
「何だこいつ。誰と喋ってんだ?」
「呼んでも全然反応しないし、目も虚ろなんだ。どうしよう」
ティムが心配そうに言う。クレイグはアレンを強く揺さぶりながら大声で言う。
「おい! アレン! 目覚ませ! アレン!」
反応がなく、虚ろなアレンを見かねたクレイグは、アレンの頬を強く叩く。その勢いでアレンはその場に倒れてしまう。
「クレイグ! 強すぎだよ!」
ティムがアレンの顔を覗きこむ。するとアレンは笑っていた。
「笑ってる……」
「せっかくだからティータイムする?」
アレンは何もなかったように話している。
「大変。戻ってないし、ティータイム始める気だよ」
ティムがクレイグに言う。するとクレイグはアレンの胸ぐらをつかんで、無理やり体を起こして言う。
「おい! いい加減戻ってこい! アイリス助けるんじゃねえのか! のんきに茶あ飲んでる場合か!」
「あれ? 何でこんなところにドワーフが?」
ティムが遠くを見つめて言う。
「はあ?」
クレイグはティムが見ている方に目を向ける。しかし、そこには輝く花が風に揺れているだけだった。
「何もいねえじゃねえか。おまえまでボケたこと言うんじゃねえよ」
ティムは小走りで駆け出し、少し離れたところで座りこむ。
「おい!」
ティムはどこかを見たまま話し続けている。
「こんなところまでどうやって来たの? 一人なの?」
「嘘だろ……。あいつもかよ」
クレイグは二人を見てため息をつく。そのとき背後から聞き覚えのある声がする。
「クレイグ大丈夫? 疲れているみたい」
クレイグが振り返ると、そこにはレナが立っていた。レナがゆっくりと近づいてくる。
「やめろ。来るな!」
クレイグは後ずさりする。
「どうしたの? 私が疲れを癒してあげる」
「そんな場合じゃねえ。それにどうせ幻だろ」
クレイグはレナから目を逸らして周囲を見渡す。そこにアレンたちの姿はなく、レナだけが立っている。
「アレン? ティム? どこだ」
「それ、だあれ?」
「やめろ! 話しかけるな」
クレイグは耳を塞いでレナに背を向ける。しかし、レナはクレイグをそっと抱きしめて言う。
「大丈夫。私がそばにいるわ」
「や、やめ……ろ」
クレイグは眠るように気を失い、その場に倒れこんだ。レナはクレイグを膝の上に寝かせて優しく見つめて言う。
「ゆっくり休んで」
クレイグは倒れ、アレンとティムもそれぞれどこかに向かって喋り続けるのだった。




