20.親切の押し売り
アレンが慌ててブラッドの様子をみると、包帯に血が滲んできていた。
「無理したらだめだって。傷口がまた開いちゃうから」
アレンはブラッドの腕をつかみベッドに運ぼうとするが、ブラッドはその手を払って言う。
「触るな! 明日、出発しないなら俺が行く。地図を渡せ」
ティムが心配そうに言う。
「ろくに歩けないし、立てないのに行けるわけないじゃん」
ブラッドはアレンを見て言う。
「どうする」
「わかった。行くよ」
「じゃあ、私が残る。ブラッドのことは私に任せな」
ケイがアレンに言う。しかし、すぐさまブラッドが否定する。
「いや、おまえも一緒に行け。俺の馬を使えばいい。それから、この街には二度と戻って来るな。先に進め、俺は後から追いかける」
アレンが驚いて言う。
「え⁉ 花を見つけたら一度戻って来るつもりだったのに」
「時間の無駄だ。すぐに治る傷じゃないのはアレンが一番わかってるはずだろ。何しに戻るつもりだ」
ブラッドがそう言ってアレンを見る。アレンは黙って視線を逸らし、ティムが話に入る。
「心配だからに決まってるじゃん」
「それがうざいって言ってんだよ。決闘前の約束はどうなった。約束破って心配の押し売りしてくる奴に感謝までしろってのか?」
ティムがムッとして黙り込み、それを見たケイが話に割り込む。
「何がそんなに気に入らないか知らないけど、あんたちょっと言い過ぎだろ。それに私はあんたの指示は受けないよ。好きにやらせてもらう」
ブラッドは眉をひそめてケイを見ながら言う。
「おまえ、逃亡者の身だってこと忘れたのか?」
「あんたも怪我人ってこと忘れたの?」
「勝手にしろ」
ブラッドがふらつきながらベッドに戻っていくのをアレンは静かに見ている。ケイはアレンの肩に手を添えて言う。
「ここは私に任せてあんたたちは行きな。一日でも早くアイリス起こしてやるんだろ」
「うん、ありがとう」
ケイは自分の部屋に戻り、アレンたちも自分のベッドに腰を下ろす。そんな中、クレイグが部屋を出て行こうとしていることに気づきアレンが声をかける。
「こんな時間からどこ行くの?」
「せっかくレナと再会したし、宿も一緒だし、会わねえ理由はねえだろ」
アレンが冷ややかな目でクレイグを見つめる。
「何だよその目は」
「べつに」
「明日、寝坊しないでね」
ティムが言う。
「へーい」
クレイグは軽く片手を上げて部屋を出て行く。
翌朝。アレンが目を覚ましたのを見て、ティムが声をかける。
「おはよ、アレン。クレイグ帰って来なかったみたいだね」
ティムが未使用の整ったベッドを指さして言う。アレンはそのベッドを見てため息をつく。
「ブラッドがこんなときに……」
そう言ってアレンは眠っているブラッドを見つめる。
「でも本人が心配してほしくないって言ってるんだからいつも通りでいいんだよ」
「うーん……」
そのとき突然、部屋のドアが叩かれる。ブラッドがその音で目を覚まし、体を起こす。アレンが慌てて駆け寄り、ブラッドの体を支える。
「動いちゃだめだって。水? 俺が持ってくるから待ってて」
そう言ってアレンはコップに水を注ぎ、ブラッドの元へと持っていく。
「大丈夫だって言ってるだろ……」
ブラッドはコップを受け取り、水を飲む。その光景を見てティムはクスっと笑いながら言う。
「僕が出るよ。ケイかな?」
ティムがドアを開けると知らない若い4人の女性が立っていた。皆、それぞれに花束やバスケットを抱えている。
「誰?」
「おはようございますう。ブラッドさんいます?」
女たちはティムを押し退け、我先にと部屋の中へ入る。
「えっ、ちょっと何⁉」
ティムは驚いて女たちを見つめる。女たちはブラッドを見つけ、少しでも近づこうとベッドに群がる。先頭の女が花束を渡しながら話しかける。
「あの、これ、お見舞いにお花持ってきました」
そう言った女を押し退けるように、次の女が話しかける。
「お怪我は大丈夫ですか? よく効くって薬持って来たんです」
そしてまた次の女がバスケットを持って割り込んでくる。
「早くよくなってほしくて、栄養満点スープ作って――」
そう言ってバスケットから料理を出そうとしたとき、4人目の女が割り込んできてブラッドの手を握って言う。
「私、癒しのハンドパワーがあるんです」
ブラッドは怪訝な顔をして手を離そうとするが女が強く握って離れない。
「な、何だおまえ――」
ブラッドが言いかけたとき、アレンが突然大声で叫ぶ。
「いい加減にしてください! 何なんですかあなたたち!」
女たちは驚いてアレンを見る。手を握って離さなかった女も慌てて手を離す。アレンは続けて言う。
「ブラッドは安静が必要なんです。邪魔するなら帰ってください!」
ブラッドとティムは驚いて、黙って目を合わせる。
「ご、ごめんなさい。私たちのために頑張ってくれたブラッドさんにお礼がしたくて……」
そこへクレイグが戻ってくる。
「何やってんだ? でかい声出して」
そう言いながら部屋に入り、女たちに気づいて言う。
「何だよ、ブラッド。モテモテじゃねえか」
クレイグの後ろから女将が食事を持って入ってくる。女将は話しながらブラッドの元へ運んでいく。
「そりゃそうさ。あんたのような強い男が現れたんだ。女たちは我先にと嫁になりたがるさ」
食事を一人の女が受け取って言う。
「私が食べさせてあげる」
すると他の3人の女たちが食事を奪い合うように争い始める。
「ずるい! 私がやるわ!」
女たちが押し退け合っている様子をブラッドは疎ましそうに見ている。女将が女たちに言う。
「ケンカするのはいいが食事をこぼすんじゃないよ」
そう言って女将は部屋を出て行った。




