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四銃士  作者: 黄坂美々
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2.山道にて

 市場や酒場でにぎわう街イルドゥン。ネオンが街を照らし、多くの人々が行きかっている。クレイグが酒場に入る。カウンターとテーブル席があり、酔っぱらった客が数人座っている。クレイグはカウンターの隅の席にうつむいて腰かける。しばらくしてクレイグの前にビールが入ったジョッキが勢いよく置かれる。


「で、今日は何だ?」


 その声でクレイグは顔を上げる。カウンター越しにブラッドが腕組をして立っている。ブラッドは酒場の店員である。両親とは仲が悪く一人暮らしをしている。


「またアレンとケンカでもしたのか? アイリスの奪い合いとか?」


 ブラッドは鼻で笑い、クレイグを見る。


「アイリスが死んだ」


 クレイグはそう言ってビールを一気に半分飲み、またうつむく。ブラッドは眉をひそめ、クレイグをにらむ。


「くだらないな。そんな嘘に引っかかる奴いるのか?」


 クレイグが顔を上げブラッドを見る。


「アイリスが変なもの食って、寝たまま起きなくなっちまった。死んだと一緒だろ」


 ブラッドは身を乗り出し、クレイグに近づく。


「詳しく話せ」



 早朝、ブラッドが診療所のドアを激しく叩く。二階の部屋で眠っていたアレンがその音で目を覚ます。


「アレン! 起きろ!」


 外からブラッドが叫んでいる。アレンは部屋の窓を開け見下ろす。ブラッドが険しい表情で見上げている。


「下りて来い!」


 アレンはしぶしぶ下りていき、少しだけ開けたドアから顔を覗かせる。


「こんな早くに何の用?」


「アイリスのこと聞いた」


「うん」


 アレンはブラッドから目を逸らす。


「バカかおまえは、食わないだろ普通」


「うん」


 ブラッドはアレンの胸ぐらをつかみ、外に引きずり出す。


「おまえアイリスのこと好きなんだろ! だったらおまえが守らないでどうする。お花畑は一人で十分なんだよ」


「ごめん」


「アイリスが目覚めても近づくな」


 ブラッドはアレンを突き放し、診療所内へ入っていく。アレンはうつむいて立ち尽くす。



 病室でアイリスが静かに眠っている。そこにブラッドが入ってくる。ブラッドはアイリスの手をそっと握る。


「絶対に助けてやるからな」


 そうつぶやいてブラッドは病室を出ていく。病室を出たブラッドは、壁にもたれて立っているアレンに近づき目の前で立ち止まる。


「何ぼーっとしてんだ。早く用意しろ。そのまま行く気か?」


「え?」


「錬金術師のババアに会いに行くんだろ」


「こんな早くから? まだ6時だよ? ティムと10時に――」


「起こす気あるのか?」


「あるよ! でも錬金術師のおばさんだって迷――」


「アイリスの人生とババアとどっちが大事なんだよ」


 アレンは少し黙り込み、つぶやく。


「アイリス……」


「だったら早くしろ」


 アレンは慌てて階段を駆け上がる。アレンの背中に向かってブラッドが声をかける。


「用意ができたらいつもの橋に来い! 俺はティムらを叩き起こしてくる」


「はーい!」


 アレンの返事を聞いて、ブラッドは診療所を出ていく。



 アレンとブラッドがリュックサックを背負い、橋に腰かけている。そこにティムとクレイグがリュックサックを背負い小走りで来る。


「やっと揃ったか」


 クレイグが眠そうにあくびしながら言う。


「メシもろくに食ってねえんだけど……」


「結局みんな行くんだね」


 ティムがブラッドとクレイグを見て言う。


「おまえら二人じゃ頼りないからだ」


 ブラッドが言う。


「ふーん。じゃあ、僕について来て!」


 ティムが先頭を歩き、3人はその後をついて行く。アレンがブラッドに近づき質問する。


「錬金術師の人ってどんな人?」


「知るか。ティムに聞けよ」


「ブラッドも会ったことあるんでしょ?」


「あるわけないだろ。そんな変な奴」


「でもさっきおばさんって――」


「山奥にこもる奴はだいたいババアだろ」


 アレンは怪訝な目でブラッドを見る。ティムがふと振り返り3人に言う。


「あ、これから2時間ずっと山道だから覚悟してね」


 3人は嫌そうな顔を浮かべ、黙ってついて行く。



 舗装されてない山道が続く。ティムが先頭を歩き、その少し後ろを3人が息を切らしながら歩いている。


「ティム! どこまで登んだよ!」


 クレイグが苛立ちながら叫ぶ。


「もう少し! もう少しで滝があるからそこで半分くらいかな。そこで休憩するから頑張って」


 ティムが振り返って言う。


「はあ!? まだ半分!? もう森飽きた」


 クレイグが文句を言いながら歩いている。


「まあ、景色がずっと一緒だからね。そうだ、深呼吸してマイナスイオン取り込んでみたら? イライラ収まるかもよ?」


 アレンは立ち止まって深呼吸し、クレイグにもするように促す。


「収まんねえよ! 早朝に起こされて、延々と山道歩かされて、着いた先がババアの住処ってやってらんねえだろ」


 クレイグがだるそうに歩きながら言う。


「やっぱババアなんだ……」


 アレンは苦笑いでつぶやく。最後尾を歩いていたブラッドが息を切らしながら言う。


「ババア説、訂正する。こんな山道、ババアだと家に着く前に死ぬからな」



 しばらく歩いたところでティムが振り返って、3人に手を振る。


「滝あったよー! みんなここで休憩にしよー!」


 アレンは倒れるように座りこむ。


「やっと休憩だ……」


 ブラッドは辺りを見渡す。


「滝は?」


 ティムが一歩横にずれ、後ろを指さす。


「ここだよ」


 ブラッドはティムの指す方を見る。そこには岩肌に小さな亀裂があり、そこから水がちょろちょろを流れ出ている。流れ出た水の真下に小さなきょとんとした顔の地蔵がある。その地蔵の頭に水があたりしぶきが立っている。そして地蔵の横には30センチくらいの立札があり「地蔵滝」と手書きで書いてある。ブラッドはそれをじっと見つめて、無言で立札を蹴り飛ばした。


「ああ! 大事な目印!」


 ティムが慌てて立札を元に戻す。

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