19.戦いの末
ブラッドは片膝をつき、体中から血を流して呼吸も乱れているが鋭い視線で男たちを見つめている。賊の男たちも息が上がりふらついている。
「しぶとい野郎だ……」
一人の賊の男がブラッドにとどめを刺そうと襲いかかる。しかしブラッドは男のナイフを奪い取り、男の腹部を突き刺す。男はその場に倒れこむ。
「こいつ、迷いがねえ。ただのシェフじゃなかったのかよ……」
そう言って少し怖気づいた男が一歩後退したのをブラッドは見逃さなかった。その瞬間、男の手首を蹴り上げ、男が落としたナイフを拾って男の腹部を刺す。そうしてまた一人の男が倒れ、残るはリング上に一人と外野に一人となる。
「な、なんだこいつ……」
3人の倒れた仲間を見て、たじろいだ賊の男がリング外にいる仲間に声をかける。
「おい、引くぞ! 手を貸せ!」
リング外にいた仲間の男がリングへ入り、倒れた男たちを担いで馬車に乗せて逃げるように去っていった。ブラッドは馬賊たちの姿が見えなくなったのを確認するとその場に倒れこんだ。街は一瞬静まり返って、すぐさま歓声が上がった。人々は抱き合いながら喜びを分かち合うのだった。ケイはローブを脱ぎ捨て、喜びに沸く人々を押し退けながらブラッドの元へと急いだ。意識がなくぐったりとするブラッドを抱き寄せて体を揺らす。
「ブラッド! ブラッド! しっかりしなよ! ねえ!」
その呼びかけも空しくまったく反応はなかった。そこへアレンたちが駆けつける。
「ブラッド! すごい傷だ……」
ティムが悲愴な面持ちでブラッドを見る。アレンが皆に言う。
「急いで手当しないと。とりあえず部屋に運ぼう!」
4人は慎重にブラッドを担ぎ、クレイグは周囲の人々を見渡してつぶやく。
「所詮、他人か。犠牲になった奴なんかどうでもいいみてえだな」
ケイが不機嫌に言う。
「自分たちさえ助かればそれでいい。みんなそんなもんさ。他人の悲しみなんて見て見ぬふり。どいつもこいつも腐りきってるよ」
ティムがぼそっとつぶやく。
「助け損……」
その言葉をだれ一人否定するものはいなかった。歓喜に包まれた人々の中を4人はただ静かに傷だらけのブラッドを運ぶのだった。
宿屋の部屋で体中に包帯を巻いた状態のブラッドがベッドで静かに眠っている。ベッドのそばにはアレンと医者の男が立って話をしている。医者の男がアレンに笑顔で言う。
「君は腕がいいな。君がサポートしてくれて助かったよ」
「いえ、ありがとうございました」
「わかっているとは思うが、当分は絶対安静だからね」
「はい」
「でも彼はすごいな。あの戦いの中で致命傷を避けていたとは驚きだよ。私たちは運がいい。彼のような強者が街に偶然現れて助けてもらえて。本当に感謝しているよ」
アレンは黙って視線を落とした。医者の男は思い出したように皮の鞄から薬の瓶を取り出して言う。
「彼が目覚めて傷が痛むようならこれを飲ませてやりなさい」
アレンは瓶を受け取り、テーブルの上に置く。アレンと医者の男が部屋を出ると、クレイグたち3人が廊下で治療が終わるのを待っていた。医者の男は軽く会釈をして帰っていった。すぐさまティムがアレンに聞く。
「ブラッドは?」
アレンが首を横に振り話す。
「まだ目覚めない。でも致命傷は避けてるから大丈夫だよ」
ケイが安堵の表情を浮かべて言う。
「あの傷と出血を見たときは正直だめかと思ったよ」
クレイグがアレンに言う。
「でもこれからは、あいつなしで進むしかねえ。どうすんだ?」
「うん……。次の満月は3日後か……」
ティムが口をはさむ。
「でもブラッドが言ってたけど、アリオト砂漠って奴らの縄張りだよね?」
「あいつがいねえの痛手だな……」
クレイグが言う。それを聞いてアレンが二人に言う。
「それより奴らが復讐に来たときにブラッドが動けないのが心配だよ」
「そっか、あれが全部なわけないか……」
ケイがアレンを見て言う。アレンはうなずき話を続ける。
「だから今回の満月は諦めようかと思ってる。ブラッドが回復してから行こう」
「え、一月もここにいるの?」
ティムがそう言ったとき、部屋のドアが開く。ブラッドがふらつく体で廊下に出てきて、アレンの服をつかんで言う。
「何があっても進めって言ったはずだ。一月も無駄にするな」
そう言った後、ブラッドは腹部を押さえながら壁にもたれかかった。




