獅子奮迅記
『獅子連合』
関東地区をそれぞれ統一する高校の、全国から悪くも評判の高い番長とその補佐たち16人の不良の総称。これはそんな奴らのくだらなくも眩しい日々を綴った記憶の物語である。
「お帰りなさいませ。坊ちゃま。」
「あぁ。」
「…」
学校終わり、いつも通り校門前で待ち伏せをされていたワタシは、いつも通り拒否権があるわけもなく金髪(豚野郎とまでは言わないが)の黒塗りダックスフント車に乗せられた。
いつも通り新宿にあるミドリの定食屋か、脳みそまで赤いバカの屋敷か、それとも見た目だけピンクの双子が好きなゲーセンか…とにかくどこに行くのか聞くのも面倒で今日も後光まで真白いテンシを楽しく拝んでいたら、気づいた時には目の前に十何人ものメイドやら執事やらが頭を下げて出迎えてくれていた。
「…」
その人たちを、さも当たり前のようにかき分けて進んでいくのは、この家の主の息子であり、先ほどワタシを車に拉致した金髪豚野郎である。
「あ?どうした。人の顔をじっと見やがって。」
「オマエ、本当に金持ちだったんだな…。」
「当然だろ。」
どや顔むかつくな。
「バカのところの和式も好きだけど、金太郎のおうちはお城みたいで好き。」
「住んでるのが金太郎ってところが残念だけどね。」
「喧嘩か?買うぞ?」
「「えーボクらに勝てると思ってるところがさらに残念だよね。」」
「あー!オレもやりたい!!」
「こらこら、そういうことは外でやりなさい。」
「天気がいいから楽しそうだねぇ。」
「おふとん…」
「アオも楽しそうだねぇ。」
ワタシ以外のメンツ…双子、バカ、ミドリ、テンシ、そして思考まで群青のアオは来た事があるらしく、高そうな壺やら絵画のある長い廊下を、学校の廊下くらいのテンションで歩いていく。
一方ここが初見のワタシは、できる限り気配と存在を消してその後ろをついていた。そうして、やっと突き当りまで来ると、その右側にある扉をキンが開いた。
「相変わらず物がない。」
「すっきりしていて俺は好きだぞ。」
どうやら、やつの部屋らしい。広さだけは想像通りだったが、ベッドと、本棚に申し訳程度の本があるだけで他にめぼしいものはない。
「おふとん…。」
「おっれもー!!」
さっそくアオとバカがキングサイズのベッドに飛び込んでいった。どこぞの高級ホテルのソレよりスプリングがきいているらしく、二人はゴムまりのごとく何度か飛び上がったあと、しかしずぶずぶと沈んでいく。
「ちなみにおいくら万円?」
「そんなに高くないぞ。」
そう言って告げられた数字は、きっと一生忘れない。
「ちなみにオレんちは敷布団だぞー!!」
「知らんがな。」
きっと同じくらいの衝撃でこいつらのこと嫌いになるから値段は聞かないでおいた。
「まぁまぁ。お茶にでもするか。」
「わーい。」
「うわテンシが喜んでる姿、まじ天使なんですけど。」
「気持ち悪い。」
「金髪豚野郎には芸術わからんもんな。」
「かわいそうみたいな目で見るんじゃねぇ。沈めるぞ。」
「豚野郎って言われたことはスルーなんだねぇ。」
メイドさんたちがお茶とお菓子の準備をしてくれて、部屋の中にはほのかに甘い香りが漂う。血気盛んなキンはミドリが収めてくれたので、ケーキタワーみたいな食器具からいくつかお菓子を拝借する。いつも買うコンビニのやつよりは美味しいと思ったが量がないのが残念だ。
「キシがいたら喜んだろうな。」
「あいつは全部食い尽くすから却下。」
「味なんぞもわからないだろう。」
「いや、あいつああ見えて神の舌の持ち主だな。」
「食欲が勝ってなんでも食べちゃうんだけどねぇ。」
カレー以外も爆食する黄色頭のどうでもいい情報をもらったところで、そういえばと周囲を見回す。
「どうかした?」
「いや…どうでもいいけど双子は?」
確か、部屋に入るところまでは騒いでいたのでいたはず。
「ふたりならさっきあっちのドアに入っていったな。」
ミドリが指さしたのは、ベッドと本棚のある場所からほぼ真向いに見える、木の扉だった。
「なにあそこ。」
「オレ様のクローゼット。」
「一室まるごと?」
「当たり前だろ。」
「気持ち悪い。」
「やり返してんじゃねぇよ。」
どや顔したら殴られそうになったので横に避ける。
「行ってみる?」
「えー。お菓子食べていたい。」
「一緒に行こ?」
「よろこんで!!」
「オレもオレも!!」
「テンシとのデート邪魔しないでもらえます?」
「本当、シロさん以外には冷たいのな。」
「知ってる!ツンデレってやつだから仕方ないってトーマがいってた!!」
「くそミカン頭が。」
ちなみにワタシはツンデレではなく、テンシ以外の不良には極力関わりたくないだけだ。ほらワタシ、か弱い善良な一市民だから。
「とつげきー!!」
「こらこら。走ると転ぶのな。」
止める間もなくドアに突っ込んでいくバカの後ろについて、勢いよく開かれたソレの中をのぞき込む。
「うわぁ…。」
言葉を失うを体現してしまうほど、そこには大量に服があった。いや、服というよりも衣装といった方がよいだろうか。
「どおりで季節イベントの時用意がいいと…。」
「変態だもんな!!」
「よし表出ろ。」
「双子は見当たらないのな。」
「かくれんぼでもしているのかねぇ。」
「モモー!!いるかー!!」
「近所迷惑。」
「半径10キロ以内には森だけだぞ。」
「もうお前黙っとけよ。」
天井まで届く服の山を眺めていると、奥の方から何かが飛び出してくる。G的なものを想像して瞬時にミドリの背中に隠れた。このなかでは一番ガタイがいいから隠れやすい。
「「あれ、みんなも来たの?」」
「…お前ら、その恰好…。」
「なんだそれすげー!!!!!」
「あら可愛いねぇ。」
「…?」
「クロさんも見てみるといいのな。」
「いやまだ安心は…」
「クロちゃん見ないの?」
「見ます!!」
Gでもなんでもいい。テンシに呼ばれてミドリの背中から飛び出した。
「…。」
そこで一番に見たものは、確かにGではなく双子だったのだが。
「…何してんの。」
「クロってば、ボクらが可愛いからって見過ぎだぞ。」
「ほんと困ったちゃんなんだから。」
そう、双子だったのだが、最後に見た時は学ランだったはずなのに、どうしてか現在はメイド服にウサギの耳をつけている。ピンクの髪の毛と相まって可愛いと言われれば可愛いのだが、脳みそが受け付けていない。
「…うさ耳ショタメイド…?」
「「ご奉仕させたいなら金払え♪」」
「嫌だけど。」
見た目と中身のギャップは今更だった。
「シロっちも着てみる?」
「!!」
「クロちゃんが期待した目で見てくるけどワシはやらんよ。」
「!!」
「シロさんの事となるとクロさんはやっぱり面白いな。」
「オレも着てみたい!!」
「バカは自分の大きさ考えてから出直してきて。」
「そんなことよりボクおなかすいたー。」
「お菓子がまだ残っているから、一緒に食べような。」
「わーい。」
「…おかし…。」
「アオさんも起きたみたいだな。」
「おかしー!!」
「集中力皆無か。」
「バカは目の前の事しか考えられないからね。」
集中力がないのはお互い様だろう。すでに興味がお菓子に移った面々の後ろに
ついていこうとして、もう一度クローゼットを振り返る。
「…。」
そして、そっとドアを閉めた。世の中には深く追求しなくてもいいこともあるのだと学んだ日の出来事である。
4×4=16(しし=16)連合です。勝手なやつらなので書くのは楽しいですがまとまらない。他のメンツも出したいけど、果たして…。