和也の望み
暫く仕事と家との行ったり来たりだが、帰る場所には俺の愛するユキが待っていると思うと帰りは楽しみだ。職場では恋人を亡くした者として皆が優しくしてくれる、毎度思うが‥‥‥。申し訳ない! 実は今、最高に幸せなんだ! と叫びたい!
‥‥‥そういえば輸血パックが無くなるな。和也が持ってきてくれるはずだが、問題はユキだな。輸血パックはやっぱり受け付けないようだ。
「ただいま!」
家に帰って来ると、和也がいた。輸血パックを持って来てくれている。が、やっぱりユキは飲んでいない。
「やっぱり無理か?」
悲しそうに下を向くユキ。和也が
「あそこに行きますか? ユキ様を気に入った女性がいまして、いつ来るのかとよく聞かれるのですよ。ユキ様はその女性の血液は飲めていましたから、彼女も喜ぶでしょう。‥‥‥実は彼女、ユキ様と同じRHマイナスなのですよ。ユキ様には呑みやすかったかと」
「確かに彼女の血は飲めたけど‥‥‥」
和也が心配そうに言う
「飲めない輸血パックより飲める血液を確保しておくのはヴァンパイアにとって大切ですよ」
そこで俺は思い出す。あれ?
「うん? 彼女達の記憶は消したつもりだったが‥‥‥」
「私もそう思っていたのですが‥‥‥どうもユキ様の牙の快楽はしっかり覚えているようです」
俺はふっと笑って
「確かにユキの嚙み方は他のヴァンパイアと違った感覚があるからな。もしかしたら‥‥‥ユキが噛んだ者はユキを認識してしまうのかもなあ」
「ええーー! それってなんか嫌だわ」
ユキが少し膨れる。
「‥‥‥でも、それって大切なのよね。ヴァンパイアにとっては‥‥‥」
和也がにっこりと微笑んで言う。
「はい! そうですよ。ユキ様」
笑顔の和也が何だか今日は威圧感がある。
「ユキ様。マルクス様の独り占めはいけませんねえ」
そう言った後俺に向かって
「ユキ様がマルクス様を愛していらっしゃる事はよーく知っています! でも、私もマルクス様をお慕いしているのですよ!」
あの和也が子犬のように甘えた目で俺を見る。
「ああーー‥‥‥分っているよ。お前にはいつも世話になっているからな。それで和也は俺に何を望む? 吸血の快楽か? 俺の血か?」
和也が俺に近づく。
「‥‥‥では‥‥‥吸血の快楽を」
俺は和也の顎をくいっとあげ見つめる。
「和也。首は嫌か? マリーには首から吸血して貰っていたんだろう? 母は頸動脈からの吸血が好きだったからね」
「‥‥‥はい‥‥‥そうです‥‥‥」
「そうか。なら、望むようにしよう」
俺は和也の顎を挙げたままその首に顔を沈め牙を立てる。和也の吐息が耳をくすぐる。満足させてやるよ。お前には本当に沢山の借りがある。吸血していると顔に何か水滴が落ちる。和也が泣いている!
「‥‥‥マルクス様はマリー様と同じような噛み方をされるのですね‥‥‥ゆっくりと牙を立ててゆっくりと沈めていく‥‥‥幸せです」




