初めての吸血
夜中何やらごそごそとユキが冷蔵庫を開けたり閉めたりしていた。そう思うと今度は蛇口から水が流れる音がする。
「どうした? ユキ」
俺は後ろから声を掛ける。振り返ったユキは‥‥‥これは‥‥‥
「喉が渇いて渇いて、どんなに水を飲んでもダメなの!」
と辛そうに言う。ああ。これは‥‥‥
「ユキ。水を飲んでも喉の渇きは収まらないよ」
「じゃあ。どうしたらいいの?」
困った顔をするユキに俺は言う。
「ユキ。水を飲んでも無理だろう‥‥‥それは血液を飲まないと喉の渇きは収まらないよ。君はまだ、吸血の仕方を教えてもらっていないのか? 和也から聞いていただろう?」
「だって‥‥‥血液を飲むって‥‥‥抵抗があるんだもの‥‥‥」
「ふう。ここはマイキーの眷属がオーナーだから血液もあるはずだ。持って来させよう」
俺はルームサービスを使って『ブラッド』を頼む。程なくして“それ”は部屋に届いた。
「ユキ。こうやってみると綺麗だろう?」
彫刻をされたグラスに入った血液はワインのようでもある。
「ユキは、初めて飲むからな。初心者用の薄い血液だ。見た目も血液って感じはしないし、冷やしてあるから生臭さもないからユキでも飲めるよ。さあ」
そう言ってユキに渡す。いやいやグラスを手に持つ。
「さあ、一気にグビっとどうぞ!」
俺は笑顔で言う。グラスを口に近づけるユキ。すると、ユキはそれを一気に飲み干した。
「おいしい!」
驚いているな。血液が枯渇すると現れる症状だったから、身体中に染みわたるだろう。
「思ったより美味いだろう?」
そう言う俺に
「もっと欲しい‥‥‥」
とユキが甘えるように言う。
「なら、俺の血を飲むか? 吸血の練習にもなる」
「‥‥‥主の血を飲んでもいいの?」
「いいんだよ。それで主の力や能力を持つ者もいるよ」
「‥‥‥力って‥‥‥」
「俺達純血種と言われる始祖は相手の思考を操作する事が出来る。催眠状態に出来るんだよ」
「それってスゴイ事だけど‥‥‥悪用されたら‥‥‥」
「そうだな。悪用されたらこの世は最悪な事になるだろうな。それよりユキ。何処の動脈がいい?」
顔を近づけて聞いてみる。
「‥‥‥頸動脈は私には難易度が高いわ‥‥‥頭骨動脈で‥‥‥いいかしら?」
俺はユキの前に腕を出す。
「場所は分かるな」
「うん」
ユキの口が開き俺の腕を噛む。ユキ。上手いじゃないか、流石はドクターだ。
「そう。最後は舌で舐めるようにする、それで止血出来る」
ユキが俺の腕を離す。
「ユキ。上手いじゃないか。始めは皆血まみれになるんだよ」
俺の腕を掴んだままユキが聞く
「マルクの血って変わった匂いがするのね。でも美味しい」
「純潔種の血だからね。特別なんだよ。だから匂いで俺達始祖を見分ける事が出来る奴もいるよ。レオナルドみたいにな」




