眷属というヴァンパイア
「ユキ様。今後眷属としての振る舞いやヴァンパイアについて私からお教えします」
和也はユキに言う。
「お願いね。私、何も分っていないから」
そこから和也の講義が始まる。俺はこれで良かったのかと考える。あのまま人間として‥‥‥。これは俺の勝手な我がままな行為だったのではと。有紀を失いたくない、それでヴァンパイアにしてしまった‥‥‥。
「そうなの! ヴァンパイアになったからといっても不死じゃないの!」
「そうです。眷属でもその命に限りはあります。個体差がありどの位の寿命かはっきりとはわかりません。私は江戸時代になってヴァンパイになりました。400年以上は生きていますよ」
「すごいわね。マルクはどれ位生きてきたの?」
ユキは俺の顔を見る。
「俺はフランスのフィリップ6世(1328~1350)の頃に生まれたからなあ、兄達はもっと前のカペー朝時代に生まれているから、これだけ長いと忘れるよ」
「それじゃあ! その目で色々な歴史を見てきたのよねえー! すごーい!」
ちょっと興奮気味のユキ。自分は人間ではなくなってしまったのに逞しいな、いや、由紀は俺と付き合う時にもう覚悟を決めていたのだろう‥‥‥。
「まあね。レトロな時代もいいけど、今の様に色々便利になると昔には戻れないよ」
「そうよね。日本だって電化製品が一般に普及する前の時代で過ごせっていわれると厳しいわ。インターネットが当たり前に使えるようになった時代からは考えられないでしょうね」
和也の講義は続く。
テントを出て医療班のドクター達と別れの挨拶をする。恋人を失って傷心のマルクス。と写っているのだろう。それでいい。和也が録音されたレコーダーを遺体と共に預け日本へと届ける手続きをした。国外で亡くなった人を専門で運ぶ業者がいる。その人達に託す。
「宜しく頼むよ」
俺はその遺体の有紀の瞼にキスをする。その場を後にして和也と兄達の元へ向かう。
「ユキ。これから俺達はこの戦争を始めた本当の黒幕に逢いに行く。ユキには和也がいるし、ユキもヴァンパイアだ。心配はそれ程していないが‥‥‥君には闘う姿は似合わない。だから、俺の傍にいて見ていて欲しい。本当の闘いはこれからだ!」
和也はもう荷物片づけは終わっていた。
「参りましょう。マルクス様。兄上様達がお待ちです」
「わかった」
俺達は空港へと向かう。もちろんユキには変装してもらう。




