ユキ
有紀は、か細い声で俺に言う。
「マルク‥‥‥貴方とずっと一緒に居たかった」
そう言って再び意識を失う。
「すまない。有紀と、ここに一緒に居させてくれ」
俺のその言葉に他のドクターは察してその場を出て行った。治療が出来ない。という事はそう言う事だ。和也は俺の足元にいる。俺は決意した。
「和也。有紀が暴れたら一緒に押さえてくれ」
そう言って俺は有紀を抱き上げその首に牙を沈めて吸血する。相変わらずうまいよ。ここからだ。血液が無くなった有紀の身体が激しく揺れる、すると有紀の声とは思えない声が発せられる。
「ぎゃー!」
そして、起き上がり暴れる。和也と俺が押さえ付ける。俺は有紀の口元に自分の腕を当てる。
「有紀! 俺を噛め! そして俺の血を飲め!」
大きく口を開ける有紀。そこに今までには無かった牙がそこにあった。そして有紀はその牙で俺の腕を噛み、獣のように唸りながら俺の血を飲んだ。無意識なのは分かるが‥‥‥有紀。俺の腕の骨を噛んで折っている。痛みが走る。そこは我慢だ。傷は治る。それより今は‥‥‥‥‥‥。
「はあー」
と有紀は静かに言い大人しくなる。目は虚ろだ。そんな有紀に俺は聞く。
「有紀。どうだ? 気分は」
「‥‥‥私‥‥‥どうして‥‥‥それにこの血って‥‥‥」
そう言って自分を見る。怪我は治っていた。それを不思議そうに見ている。自分の口周りと襟には大量の血液が着いている。
「すまない。君を救うにはこうするしか無かった」
俺は有紀から顔を避ける。それで有紀は理解したようだった。
ベッドから降りて俺を抱きしめる。有紀はそっと俺を気遣うように
「謝らないで、私が本来望んでいた事だもの。嬉しいわ。私は貴方の眷属になったって事よね?」
「そうだな」
俺は貧血で立っていられず和也にもたれた。
「マルクス様。かなり無理されていましたから‥‥‥どうぞ私を吸血して下さいませ」
和也が出す腕に俺は牙を立てた。和也自身は嬉しそうだ。直接の吸血は初めて会って以来か。
「‥‥‥ふう助かった。いつも悪いな」
「そんな事は有りません! 久しぶりです! この快感」
和也は身を震わせて嬉しそうだ。
「和也。この後の事も任せていいか?」
「もちろんです。偽装工作はお手の物ですよ。有紀様に似た遺体は簡単に用意出来ます」
俺達の会話を聞いていて有紀は小首を傾げる。
「有紀。お前は人間として一度死んだ。だから、今この世に柏木有紀という人間は存在しない。
ここにいるのは『ユキ』という名前のヴァンパイアだよ。俺の大切なね」




