ライザ
俺達は有紀と一緒に国境なき医師団に残り医療活動を続ける事にした。
何故か特別という事で少し離れるがホテルに泊まる事になった。俺はテント生活には馴れているが有紀が気の毒で、和也の用意したホテルで過ごす事にした。柏木財閥はこの地域にも多額の援助をしているそうだ。有紀が来ていたと知ると支配人は良い部屋を用意してくれた。
「こんなに綺麗なホテルじゃなくても私はあのテントでも良かったよ」
と、不満のようだ。和也は
「柏木グループと関連している企業も多いのですよ。そのお嬢様ですからね。無碍には出来ませんよ」
「ここからあの現場までどうやって行くの?」
「私が車で送らせて頂きますよ。このホテルのオーナーからも依頼されましたから。気にする必要はないでしょう」
有紀はあまりいい顔をしない。これでは普通に診療しているだけじゃない!と怒っていたが、この国の医療体制は脆弱だ、その事を分かって欲しいというこの国の想いもあるのだろう。大きなグループ企業なら技術支援も考慮してくれると踏んでいるのが見え見えだ。だが、きっと有紀は帰ったらそう言って親に援助を頼むだろう。
「窓の外はもう暗いな。有紀シャワーでゆっくり汗を流してくるといい。入って無かっただろう?」
「ええ! 私って匂う!」
「まあな」
と俺は笑顔で有紀に言う。和也もふっと笑う。
「俺は慣れているから気にならないが、有紀は気になっていたんだろう? いいよ。ゆっくり入ってこいよ」
「‥‥‥分かったわ。入ってくる」
そう言ってシャワールームに行く。
「和也。明日からまた宜しくな」
「承知」
軽い会釈をして言う和也。その後部屋を出た。
俺は外を眺めて考える。裏で俺達を狙っている黒幕が誰なのか。恨みは沢山かっている。教会の人間はその人物に操られているだけなのかも。その裏に誰がいる? 考えたくないが思い当たる人物はいるんだ。兄達に確認しないと‥‥‥。
♢♢
ここは、キャメルが闘っている対国軍兵士が休憩しているテントが並ぶ場所。ライザが一人の兵士に声を掛ける。
「ねえ。色々と溜まっているでしょう? 私が相手してあげてもいいのよ」
と、兵士の腕を組む。
「あ? 女はここに居ないはずだが? 何処から来た!」
「あら、私は身体は男でも心は乙女よ」
にっこりと微笑むライザ。その美貌に男は鼻を延ばす。
「そういう事なら喜んで相手して貰おう。むさ苦しい男ばかりでうんざりしていたんだ。あんたみたいな美形な軍人もいたんだな」
「うふ! 嬉しいわ。そう言ってもらって。さあ、あっちへ行きましょう」
そう言って森の方に連れ出す。ライザは男の首に腕を回して囁く。
「貴方の身体って逞しいのね。それに、美味しそうな匂いがするわ」
そう言って男の首筋に唇を当てた後その牙を首筋に沈める。男は恍惚とした表情をしていたが、次第に目は白目を向き、意識を無くして倒れる。倒れた兵士を冷ややかな目で見るライザ。
「はあ‥‥‥足りないわね。次の獲物の所へ行きましょう」




