デート?
そんな笑顔の有紀に胸が疼く。
「有紀‥‥‥柏木先生、今日仕事が終わったら食事でも行きませんか?」
「いいわよ。医局で待っているから連絡してね」
そう言って戻って行く。俺もこれからカンファレンスだ、遅くなると他のドクター達の視線が痛いんだよな。さあ急ぐか。
仕事も無事予定通りに終わったし、有紀に連絡をしよう。有紀も仕事は終わったようで駐車場で待ち合わせをした。車を見て有紀が驚く。
「これってどうしたの?」
「友人からもらったんだ。日本にいたんだがもう国に帰るからお前にやるって」
「そうなんだ。買ったにしては早いなあと思ったけど、そういう事なのね」
「では、どうぞ姫」
「まあ! マルクってそんなジョークも言えるのね」
「俺は有紀から見てどうな風に見えているんだ?」
「出逢った時の印象がね、なかなか抜けないわ。だって迷子の子犬みたいだったから」
そう言ってコロコロと笑う。ははは正直人間酔いはするわ、貧血でふらつくわで、頼りない、怪しい人物だっただろうからな。
「だから、ほっておけなかったの」
そう言ってこちらを向く。俺は運転をしているから脇見はしてないぞ。だが、有紀が俺を優しく見つめているのが解る。
「知っている? 貴方あの病院でちょっとした有名人になっているのよ」
「何の事だか解らないのだが?」
「だって色々な国の言葉が話せる人なんてそうそういないし、イケメンだから余計に目立つのかしら?」
「嬉しいねえ。イケメンって言われるなんて。有紀の目にも俺はそう映っているのかな?」
‥‥‥答えが返って来ない。ちょっと心配になるが運転中だ、それにまだこの国の道路事情に馴れていない。左車線だとリックに聞いていたが‥‥‥脇見をする勇気はない。
予約した店に着いた。
「着いたよ。ここだ」
有紀が驚いてつい大きな声で
「ここって! 結構お高いお店じゃない!」
「有紀。声が大きい」
「‥‥‥っていっても私のこの恰好でいいのかしら?」
「うん。ジーンズじゃなければ大丈夫だよ。有紀のその服よく似合っていて素敵だよ」
「はあ~貴方の金銭感覚が解らないわ」
溜息混じりに言う。
「だって女性を誘っておいてファミレスじゃあね」
と爽やかに笑って見せた。
「私にそんな気を使わなくてもいいのよ。ファミレスだって構わないのだし」
「さあ、こんな所で立っているのも変だから中に入ろう」
高そうなドアが開いて中に入る。空かさず店員が出迎える。
マルクは店員に
「予約してあるのだが」
「マルクス・ウェベリン様ですね。ご用意出来ております。こちらへどうぞ」
流石は有名店だ。客の名前をしっかり把握している。有紀が緊張しているのが解って何だか可愛いい。店員に案内されて個室にはいる。
「ここなら人の目は気にならないだろう? 寛いでよ。いつもの元気な君は何処に行ったのかな? 借りて来た猫になってるよ」
俺だってあの時の弾けるような笑顔で、色々連れて行ってくれた時の君をハッキリと覚えているよ。俺はずっと笑顔で有紀を見ていた。
料理が運ばれてくる。前菜からもう素晴らしく芸術品だ。リックが勧めるだけのお店だ。きっと満足させてくれるだろう。
「美味しい!」
有紀が笑顔になった。
「やっと笑った」
「もう仕方ない! 今日はマルクに付き合うわ。この後も予定を決めているんでしょう?」
その顔はいつもの弾けるような笑顔だった。
「まあね。あの時のお礼とでも思ってよ。ほんとに助かったんだよ。あんな所で倒れたら洒落にならないからね」
暫く食事をしながら有紀の話を聞く。有紀の両親も医師で大きな病院を経営している。いずれ自分がその病院に戻らないと行けないのだと。
「だから、今は自由にさせて貰っているわ」
美味しそうに食べながら話す。
「君はそれでいいの?」
俺はきっと聞いては行けない事を聞いた。
「私に選択肢はないわ。マルクのように自由にいられる事は出来ないのよ」
食事は終わった。
「有紀、次に行こう。付き合ってくれるんだろう」
俺達は店を出た。車は運転代行者に頼んだ。歩きながら俺はさっきの有紀の話を思い出す。
「次はあそこのラウンジだよ」
「はあ~本当に貴方って変わっているわね。まあいいわ! 付き合ってあげる。行きましょう!」